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河童
第一章
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、ただの不審者じゃ…」
「甲羅背負ってたんだって。…不審者だとしても、ちょっと見たいじゃん?」
「で、きゅうりを浮かべて待っている、と」
「さっきまでは、他のグループもいたんだけどね…」
誰もいない用水路を見渡して、沙耶が団扇をあおいだ。それは無意味に、湿気た空気をかき回すだけなのに…。
「本格的に暑くなったら、帰っちゃった」
「そのグループも、用水路にきゅうりを?」
「畑に潜伏してた。目撃証言に倣って」
ばかじゃないかしら。…その言葉を、ぐっと飲み込んだ。今私がすべきことは、とにかくこの2人を白熊に誘うことなんだから。
「だったら私たちも帰ろうよ。この暑いのに河童なんて」

がさ。

きゅうり畑のあたりに、『なにかの気配』が。私はあえてそっちを見ないようにして、ついでに2人にも見えないように、僅かに動く。
「…出てこないよ。ね?暑かったでしょ?天文館行こう。で白熊たべようよ」

がさっがさっ

「…ねぇ流迦…」琴美の挙動が不審になってきた。
「なにか、その…畑のほうから」沙耶の視線が、畑のほうをさまよってる。
「えー、なになに?聞こえないし分からない♪さっ、不審者に絡まれる前に白熊食べに行っちゃおう♪」
「…いる…いるってば!」
「流迦っ…後ろっ…後ろっ…」

がさ…がさがさ…ぽり。

…ぽり?

な…なんか、食べてる…
「…地元の子供か?」


―――喋った!!


悲鳴をあげる形で開いた琴美の唇が、ふっと緩んだ。
「……あ」
「……あれ?」
きゅうり畑から半分身を乗り出して、『それ』は立っていた。きゅうりをぽりぽり齧りながら、左手にはきゅうりとトマトをいっぱいに抱えて。
さぁ…と、一陣の南風が吹きぬけた。生暖かい、湿気た風。耳が痛くなるような、蝉の合唱。そんな見慣れた真夏の風景に灼きついたみたいに、それは居た…たしかに。
…それは、口の中のきゅうりをごくりと飲み下したあと、大きく息を吐いて言った。
「この辺で、宿、貸してくれそうなひと、知らないか?」



―――あの暑い日、私は…河童に出遭った。






「…で、君らなんだあれは。土着の性的なまじない?」
用水路にぷかぷか浮き沈みするきゅうりを指差して、彼はからかうような半笑いで言った。
「ち、ちがいます!あれは、その…」
…河童を捕まえる罠です、とは死んでも言えない。
「そ、草食の魚がいるんです!」
「へぇー、ずいぶんな巨大魚じゃん。…ピラルク?」
なおもニヤニヤしながら私を見下ろしている。…理不尽だ。なんで私がこの子たちの奇行に巻き込まれてるんだろう。言い訳までして、これじゃ私が首謀者みたいじゃない。
河童!?と見紛えたモノが、人間だと気づくのに、大して時間はかからなかった。浅
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