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河童
第一章
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みを、すっと汗が伝うのがわかる。玄関で見た、汗まみれのいっちゃんを思い出して、一瞬胸がちくっとした。…いっちゃん、泣きたいの我慢してる顔だった。

ごめんね、いっちゃん。河童熱が治まったら、もっと遊んであげるからね。

生暖かいけど強い風が頬をないだ。耳が痛くなるような蝉の声、それに肌を刺すような強い日差し。…なんだか空が、近く感じる。日焼け止めは塗ったけど、本当に効いてるのか不安になる。お母さんの日傘、持って出ればよかったなぁ…
「あつい…」
むわっとする。…空気が湿ってる。
明日辺り、大雨が降るって天気予報で言ってたっけ。
こんな日に河童に夢中の従兄弟に用水路近辺を引き回されて、近所の人に『あらー流迦ちゃん、こげん暑か日になんしよんね』とか言われてるところを想像して、げんなりした。いっちゃんのことだから…『ぼくら河童探してるがよ!おばちゃん河童どこにおやるか知らんけ?』とか、天真爛漫に言い放つんだろうな…。あぁ…逃げてきて正解。
「河童いないねー」
「やっぱガセじゃん?」
「でもみんな言ってるよ?今回のセンは堅いがよ」
「あっ、いま鹿児島弁でたー。罰金!」
…そうそう、あの頭弱そうな女学生みたいに、用水路に縄でくくったきゅうり浮かべて河童が引っかかるのを待たされたり…
「あっ、流迦じゃん!おーい、流迦―」

……えっ?

「流迦―、流迦―、流迦ってばー」
…用水路にきゅうり浮かべて河童を待ってる頭弱そうな女学生は…
「…沙耶…なにしてんの」

…私の、友達だった。

「見て分からない?」
「分かったけど理解できない」
沙耶は一瞬、ちょっと目を見開き、その後にやりと笑った。
「あ、いまイントネーションがちょっと鹿児島弁。罰金―」
「この際そんなこといいから。…用水路にきゅうり浮かべて、なにしてんの」
「なによー、自分で始めたくせに」
「用水路に括ったきゅうり浮かべる奇行を?」
「鹿児島弁使ったら罰金のほう!」
「そうだよ!流迦、記念すべき初罰金―」
罰金累計額2000円を超えている琴美が、手を叩いて用水路の斜面を駆け上ってきた。きゅうりは用水路脇の杭にくくられて、ぷかぷか浮き沈みしている。

―――私たちは、『高校出たら都会に出る』誓いをたてている。

外から来たひとは『のどかでいい場所』っていうけど、それは帰るところがあるから言えること。こんなくそ田舎で結婚して子供産んで一生を終えるなんてまっぴらだよねー、と、クラスの女子はみんなそう言ってる。
でもみんながみんな、ここから出られるわけじゃないみたい。去年高校を卒業した近所のお姉さんは、いま地元の短大に通っている。…在学中から、お見合いの話も沢山来ているみたい。先手打たれちゃったよ。逃げられないなぁ…って、苦笑いしてた。
大人は
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