第壱話 《損傷した者》〜前編〜
[2/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ぁ、こっちの世界の居心地が悪いわけじゃないが、あっちの方が色々と便利だし、やりたいこともまだたくさんあるからな」
シキは曖昧に笑って答えると、シンも確かに、と頷き片手剣を背中の鞘に収めて立ち上がる。
「ん、どうかしたか?」
「いや、レポートがあることをすっかり忘れていてな。ログアウトしようかな、と」
そうか、とシキは答え、空を見上げる。
雲は一つとしてない。実に昼寝日和と言いたいところだが、生憎と夕日が眩しくて眠るどころではない、のでシンを見ることにした。
ログアウトしようとしている親友は、メインメニュー・ウィンドウを呼び出し、操作を続けている。
「おい、シキ」
「何だシン」
大きな欠伸をひとつ漏らし、シンの話に耳を傾ける。
「ログアウトボタン」
「あ?」
「だから、ログアウトボタン。あるか?」
シンの間抜けとも取れる質問に、思わず失笑した。
「おいおい。無きゃおかしいだろ」
「……実際無いんだよ。お前も探してみろ」
はいはい、と笑いながら右手の人差し指と中指を揃えて掲げ、振り下ろした。
軽い鈴の音が鳴り、シキの眼前にも、幾つものメニュータブとアイテムの装備状況が表示されたメインメニュー・ウィンドウが現れた。シキはそのメニュータブの一番下に指を走らせ、ぴたりと全身が凍った。
無かった。
確かにログインした直後はあったのだ。だが、現在無いのだから、どうにも言い様が無い。
「……無いだろう?」
「……あぁ」
素直に頷いて、シキは、はぁと溜息を吐いた。
「……サービス初日だから、ちょっとした不具合なのかもな」
「なんか、意図してやってる気がするが」
「……シンもそう思うか。正直、俺もだ。まるで、GMが俺達が手をこまねいている姿を見つつも、あえて何もしないかのような気さえする」
かもしれないな、とシンも同意する。
「……俺達だけじゃなさそうだぞ」
顎で少し離れた所にいる人影を示すシン。
シキがそちらに目を向けると、赤みがかったツンツンヘアーを悪趣味な柄のバンダナで纏め上げている青年と、もう一人勇者面した黒髪の青年がいた。
よく見るとツンツンヘアーの青年が黒髪の青年に何やら大声で話かけていた。
「やっぱどこにもねぇよ。オメエも見てみろって、キリト」
な? という風に、シンは首を傾けた。
「やっぱり、俺達だけじゃないみたいだ」
「ちょっと話しかけてみるか」
あぁ、とシンも同意し、二人で彼らに近づく。
「……ん? アンタ達は?」
いち早く接近に気づいた黒髪の青年がこちらを見る。
「あ、悪いね。ログアウト云々の話が聞こえたもので。……アンタ達もログアウトできない口かな?」
シキは気さくに言って、軽く自己紹介する。
「あ、俺はシキ。そんで、こっちの寝癖野郎がシン」
「寝癖野郎で悪かったな」
シ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ