暁 〜小説投稿サイト〜
いぶにんぐ
第一話
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待たなくちゃいけないんですか」
「ええ、そうです」
「信じられない」
「現実が信じられないならどこかでじっとしていなさい。ひとりの人間の小言を受諾できるほどこの世界は寛容ではないんです。わかりなさい」
 ゆったりと停車に向かって減速していく中、一号車ではどこかですすり泣く声が響いていました。
 凄惨な現場とは、まさにこのような状況を言うのです。
「先輩。課長への連絡が終わりました」
「課長は一体何と」
「現場の判断に任せると。公安も介入してきてるようです」
「だろうね。テロの可能性も考えなくちゃいけないような状況だ」
「どうしますか。増援にそのまま引き渡してもいいんじゃ?」
「お前はね、そんなふうに物事を邪険にするものじゃないよ。これは僕らのヤマだ。わかってるんだからそうしなさい」
「ですか。それじゃあ応援は」
「今なら誰が来るのかな。今城(いまぎ)あたりならありがたいんだけど」
「聞いてみます。公安はどうしますか」
「少し遅らせなさい。課長ならそれができる。知ってるんだから」
「了解です」
「――あのう」
「今度はなんです? ええと――名前を伺っていませんでしたね。お名前は?」
「お名前?」
「ええ、あなたの名前。それを伺っているんですけどね」
「姫ヶ里美夜子(ひめかり みやこ)、です。美しい夜に子で、美夜子」
「成程。御正って言います。それで姫ヶ里さん。――うん? 姫ヶ里?」
「何ですか。変わった名前なのは気にしないでください」
「いえ、どこかで聞いた名前だと思いましてね? ううんと、どこだったかな。姫ヶ里……姫ヶ里……」
 現場の確認をしながら、話しかけてきた先ほどの和装の少女の相手をする御正ですが、決してそのどちらかを軽んじているわけではなく、彼がそれほど器用な男なのだということを示す事実なのだということなのです。
 破片を拾っては、穴と照らし合わせ、時折匂いも調べる御正ですが、傍から見てその行動の意味を理解できるかは微妙でしょう。
「ああ、そうだ。仕事で以前姫ヶ里という女性にお会いしましたよ。それで覚えていたんですね。そうですそうです。そうに決まってます。ふんふん、姫ヶ里さんですか。懐かしいことですね」
「その姫ヶ里さんというのは――」
「はい?」
「……いえ、なんでもありません」
「そうですか。いえ、珍しい名前だと自負されているのですから、訂正する前の反応でもおかしくはないと思います。構いませんよ、僕は」
「そんなんじゃ、ありませんから」
「そうですか。それで、何か要件があったようですが、なんでしょう。ああ、こいつはしばらく動きませんよ。僕がどうこうできる問題じゃないんですから」
「いえ、そうじゃなくて。御正さんは一体どういう身分なのかと」
「身分?」
「ええ。係員の方だと思
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