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いぶにんぐ
第一話
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人外の力で説明するのなら、やはり彼の出番ではあるのですが。
「新幹線、止めてしまうんですか、先輩」
「当然だとも。このまま走行できるものか」
「これ以上遅れたら私の堪忍袋とやらがもう爆発しますよ。いいんですか」
「不謹慎だ。控えなさい」
「すみません」
「それで? どんな感じかね」
「少しですけど匂いますね。間違いなくこれは私たちの案件でしょう」
「全く……。首都圏に入っていなければ僕らの管轄じゃないと胸を張れるんだがね」
「それもどうでしょう。乗っちゃってますからね。車内に。否が応にも手伝わされることは必至でしょう」
「僕はね、西園寺。珍しく今日はオフだったのだ。來背さんにお会いしたあとはゆっくり終わりゆく休暇を噛み締める予定だったんだがね」
「知りませんよ、そんなこと。私に言われても、事件は待ってくれないんですから」
「やれやれ。お前にそんなこと言われるようじゃ僕も終わりかな」
「御正先輩終了ですか。悲しいですね」
「やかましい。いいからさっさと課長に連絡。それから救急隊員もすぐに配備するんだぞ。わかってるね」
「わかってます。いまやりますから、待ってくださってもいいじゃないですか」
「口の減らない部下だよ、お前は」
 携帯電話を取り出す西園寺から視線をそらし、御正は穴の方を見遣ると、それが本当に異常なものであることが肌で理解できるようでした。
 そもそもこんな大穴を、走行中の新幹線に開けるには一体どれだけの駆動力を持った装置が必要になるのでしょう。
 そしてそれははたして可能なのでしょうか。
「――すみません」
「なんでしょう」
「この列車、止まるんですか」
「止まりますよ。これじゃあ走れないですからね。止まりますとも。ほら、アナウンスが流れていますでしょう。このとおりですよ」
 それは艶やかな着物を着た、御正よりも少し若い女性です。
 真っ直ぐな黒髪が腰まで伸びる和風の彼女は、たどたどしい態度で御正に話しかけたのです。
 文章ごと覚えて会話しているような、そんな印象を受ける話し方でした。
「困ります。これ以上遅れられたら、私もう駄目なんです」
「そうは言いましてもね。このまま走ることもまた駄目なんですよ。わかってもらえませんか。けが人も出ているんです。あなたは大丈夫?」
「ええ、私は問題ありません。ですから走ってもらいたいのです」
「そんなに言うならご自分で走ったらどうですか。あと少しでこれは完全に停車します。そしたらこの穴からでも抜けられますとも」
「そんなの無茶苦茶ですよ。ご自分で何を言っているかわかっていますか」
「もちろん。ですから、もののたとえですよ。絶対に停車させる、ということのね」
「困るんです。本当に。ここで動いてもらわないと。私ずうっと待ったんですよ? それなのにまた
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