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いぶにんぐ
第一話
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人間なのですから、今に始まったことではないと柔軟な態度を見せてくれたのかもしれません。
 御正自身がそれを察していたのかはわかりませんが、少なくとも、彼のしたことは間違いのない善行と言えるのでしょう。
 死んだ親の墓に行きたいという、ひとりの少女の願いを叶えてやったのですから。
「――あの姫ヶ里とかいう女、どうなりましたかね」
「さあね。今頃こってりお母様に絞られているんじゃないかな。そのあたりは家族の話だから、野暮な真似はよそうじゃないか」
「別に知りたいなんて思いませんよ。ただ先輩がせっかく匿ってやったんですから、親御さんの墓には会えたんだろうなと、そういう話です」
「ああ、それか。ふむふむ。聞きたいか?」
「聞きたいです。是非」
 春の訪れを感じさせる日の昼頃。
 今日は澄み切った青空の割に冷たい風が、開け放たれた窓から入ってオフィスを満たしています。
 モニターに向き合ってキーを叩く御正の隣のデスクでは、散らかったプリントの上に突っ伏した幼い少女がいました。
「あのあと僕が彼女を送っていったのは知っているね? もちろん」
「ええ。どうせ先輩のことですから、お墓まで連れて行ったんでしょう」
「その通りだ。随分と長い距離ではあったけど、ヘリをチャーターしたからそのあたりは問題なかった。力の暴走も、まあ僕がいたからね」
「先輩がいなくて大変でしたよ。全く」
「大変だったのはお前だけだろうね。僕はそもそも、仕事を溜め込まない男なんだから
「それはそうですけど……。私なんて先輩がいなくちゃ何もできないんですからね」
「威張ることじゃない。――どこまで話したか。ええと、到着したんだ。取り敢えずね」
「確か九州まで行ったんですよね」
「そうだ。それから目当ての街まで行って、お墓を探した。あいつの記憶もあまり定かではなかったからね。元々、母親のぼやきを盗み聞きしたようなものだから」
「よくそれで見つかりましたね。さすが、女には優しい先輩です」
「嫌な言い方をするものじゃない。というかだね。これがこの話のオチというか、笑いどころなのだね?」
「驚きました。この話、ギャグストーリーだったんですね」
「そうじゃない。そうじゃないんだが、ただ笑うしかなかったんだ。僕らはね。それというのもだ。結局、お墓は見つからなかったんだよ」
「ええ? どうしてです。 まさか記憶違いでも?」
「さあね。ただ、姫ヶ里の姫が聞いた場所には、お墓はなかった。これだけは言える」
「そうですか。なんともまあ、肩透かしな話――でもなさそうですね」
「わかるかね」
「だって先輩。とっても機嫌良さそうですもの。それくらいわかりますよ。一体何年一緒にいると思ってるんですか」
「半年だ」
「その通りです。ふふん」
「誇れるくらいの長さではないけどな
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