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いぶにんぐ
第一話
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せんけど」
「まあ待ちなさい。そんなにむきになるものじゃないんです。いいですか。人間だろうがあやかしだろうが、心があれば悩むし、悲しむし、辛いんです。どこで生まれたって、どんな言葉を喋っていたって、どんな身分であっても、それは同じなんですよ。僕はこの仕事について四年になりますけど、大変多くのあやかしを見てきました。その全員が、一筋縄ではいかない物語を持っているんです。全員がですよ? あなたもそうじゃないんですか」
「環境がどうこうという話じゃないって、ことですか」
「そうです。悲しい事件もありました。恐ろしい事件もありましたよ。それでもね。あやかしの事件はなくなりません。人の世で一所懸命くらしている人たちのサポートも、僕らの仕事なんですからね。いいですか、姫ヶ里さん。あなた、そんなままなら一生変わりませんよ。現にあなた、お母様の意思を取り違えるだなんて大きな失敗をしている。これを環境のせいにできますか」
「……できないです。私が、勝手に悶々としただけですから」
「でしょう。世界は惰性で変わってはくれないです。変えるなら、壊さないと。そのためには、親御さんの意思を反故にするような真似はいけませんね?」
「はい……。すみませんでした…………」
 ぼろぼろと涙をこぼす少女の手を握り、御正は笑います。
 涙を流す彼女にはそれが見えてはいませんでしたが、見せるための笑顔ではないのですから、これでいいのでしょう。
 御正が決めることです。
 姫ヶ里にはどうにもできません。
 逆もまた、そうなのですから。
「――さて、それじゃあそろそろ終わった頃でしょうから見に行きましょうか。そしてあなたの口で伝えなさい。このあとどうするかをね」
「そうします。このあと私は、そうですね――」
 御正よりも先に立ち上がった姫ヶ里。
 世間知らずな山の姫のはじめての遠出は、こうして少しばかりの傷跡となって、彼女の今後に影響を与えていくのでしょう。
 その瞬間に立ち会ったのが御正であったことを良く思うのも、きっと今より後の話なのです。
 物を知らない彼女には、理解しなければいけないものがあまりにも大きすぎる出来事だったのですから――。




1-5

 ――この事件の後日談を少しばかり話すならば。
 トラブルの直接の要因と判定されたのは山の怪であるとされ、御正と西園寺はそんな暴走したあやかしを制圧したというのが事の顛末として伝わりました。
 山の怪がどうして人間の社会に降りてきて突如新幹線を襲ったのか。
 この事件にはとても多くの謎が含まれていましたが、御正は一貫して「僕にはわかりかねます。偶然出くわしただけなので」と主張し続け、その向こうに何かを察した対特殊外人捜査の面々は、その彼の主張を受け入れるに至ったのです。
 彼は元々そういう
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