第一話
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の中で窮屈な思いをしていたところをね」
「はあ……?」
「いえ、いいんです。そんなことはいいんですよ。ただ伺いたくてね。お父様のお墓にということでしたけど、それはどうして?」
「……私、生まれてからあの山にずうっと閉じ込められていたんです。悪い思いをしたことはありませんけど、遠い昔にお母様が人の世に出てお父様と恋に落ちた話を聞いたその日から、ずうっと外の世界に憧れていて……」
「それではあなたはあやかしと人との子供ということですか」
「みたいですね。力は山の怪のものを濃く受け継いだようですけど」
「ふむ。つかぬことを伺いますが、お母様は本当にあなたを山に閉じ込めていたのですか?」
「はあ?」
「いえ、では質問を変えましょう。あなたのお年は?」
「今年で十六です」
「成程」
「あの、なにか?」
「いえね? あの偉大な姫ヶ里様が、人間と交わった子供を山に閉じ込めておくとは考え難いのですよ。ですからね? これは、本当に野暮なことですけど。もしかしたらお母様は閉じ込めるつもりなんかではなかったのかもしれませんね」
車体が大き揺れるのと同時に、矯正がどこかで聞こえました。
こんなことのあった車内はすでにパニックになりかけていますが、この御正と少女とはとても落ち着いた様子で、一号車のシートに並んで座っています。
「寒いですね」
「え?」
「いえ、あの大穴ですけど。あれを空けたのはあなたですよね」
「え、ええそうです」
「お母様、きっとそれを予見してらっしゃったんですよ。山の怪が山から離れて力が制御出来なるなんていうのは、とっても幼稚な話です。事実、僕があなたの母と出会ったのはこ凍える冬の町並みで、オフィスから出てくる人間の男性を待っているところだったんですからね。今でも覚えていますよ。あれだけ偉大な存在が、たった一個の人間と一緒にいるために数時間出待ちのような真似をしているんです。あなたのような着物を着込んで、凍える手を吐息で温めながらね」
「……お母様ったら、そんなことを」
「あなたの母上は立派に人の社会に溶け込んでいました。それはもう立派なものです。ですから、きっとあなたにも、力の制御をさせたかったはずなんです。そのための区切りを設けたとして、それが十六歳という節目であるわけがありましょうか。当然人として成人を迎える十八の時だと思いますよ? きっとね」
「――本当は、お父様のお墓がどうなっているかを一度見てみたかったんです。憧れなんかじゃなくて、お母様がお父様を今でも愛しているかどうかを、見てみたかったんです。だって酷いじゃないですか。私が生まれてから一度も、お母様は人の世に出ていないんですから。その間にお墓がどうなっているのかなんて、気にしていない様子で」
「ですが、それはあなたの問題ではないでしょう。ここにきてよ
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