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いぶにんぐ
第一話
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に宿るあやかしもいれば、山に宿る神もいる。あなたはあの山から出られない存在なのです。そしてそのことを、他でもないあなたが知らなかった。暴走した力はこの世の器物は簡単に破壊してしまうでしょうね。新幹線の側面だなんて、簡単に」
「全部、わかっているんですね」
「姫ヶ里さんは、ずうっと新幹線が動くかどうかを心配なさっていましたから」
「え? それが、おかしいですか」
「おかしいでしょう。内側から側面を抉られていると聞こえていたはずなのに、何より動くかどうかを心配するんですから。これじゃあまるで、事のあらましを全部知っているかのようじゃないですか。姫ヶ里という名前を知っていたのは、完全に偶然ですけどね」
「だって、動いてくれないとまずいんです。焦るじゃないですか。当然ですよ。御正さんの言う通り、私は山を抜け出てきたんですから」
「間違いなくお母様が追っ手を出されるでしょうね。あなたは自分の力の暴走の他に、それが怖かったんでしょう? そうに決まってます」
 一度だけ深く頷いた少女は、あやかしという割にとても小さな体をしていて。
 御正の瞳には優しい色を浮かべています。
「いけませんよ、姫ヶ里さん。あなたはあの山の主なんです。あなたがいなくなったら、あの山は廃れてしまう。お母様はあなたが生まれたその瞬間より、どんどん力がなくなっていっているんですからね」
「そんなことを言っても、どうしようもありません。私は、どうしてもいかなくちゃいけない場所があるんです」
「お母様には内緒にして? 家出ですか」
「それは――」
 途端。
 デッキへの出入り口で仁王立ちをしていた西園寺の頭の隅に突き刺さるような衝撃が走りました。
 彼女にはそれがなにかわかっていましたが、自分の上司もそうかは確証がないため、訴えかけるような瞳で御正を見遣ったのです。
「先輩。なにか来てしまっていますよ。気づいてらっしゃいます?」
「いや、僕にはわからない。それは何者かね」
「十中八九その女を追ってきた山の物の怪でしょうね。そんな感じの匂いです」
「ふうむ。参りましたね姫ヶ里さん。あなたの危惧なさっていたことがすぐそこまで迫っているようです」
「そんな……! いけません。私はこの先に行かなくちゃいけないんです」
「その結果お母様が辛い思いをしても?」
「……そうです」
「先輩? いらっしゃったようですよ?」
 昇降口のぶ厚いドアが吹き飛び、夜の闇から見慣れない形状を生物がゆったりと乗車してきます。
 人間のような五体を持っていますが、顔には大きなくちばしがついており、修験者の格好をしているそれは、現代においても自身の存在を隠すことの必要性を理解していないと主張するような、れっきとしたあやかしです。
「やれやれ。これだから人の世の理をしらない輩は困るんだ」

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