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いぶにんぐ
第一話
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「西園寺。お前はいつからそんなふうに先輩に対して腐ったような口の利き方をするようになったのかね」
「先輩の部下になったその日からだと思いますよ」
「ふん。口にものを入れながらしゃべるんじゃない」
「すみません」
「全く。君はいつもそうだな。僕の苦しみを知っていながら、そうやって苦しめる側に加担する。部下なのに仕事を増やしてしまうあたり、君には上司を苦しませる才能があるぞ。誇りなさい」
「先輩。そんなにここが嫌ならデッキにでも行ってくださいよ。新幹線の車内なんて、基本的に臭いですよ?」
「基本的に臭い便があってたまるか」
「大便とかは臭いですけどね」
「西園寺。お前はそんなんだからいつまでたっても浮いた話のひとつもないんだ。いい加減ボーイフレンドでも作ったらどうだね。出会いがないというのは、出会うことに消極的なだけの人間がつくった言い訳だぞ」
「安心してください先輩。私はそんな言い訳はしません。出会いなんていくらでもありますからね。例えばほら、この車内だって、この人の数からすれば出会いの場としては格好のものです」
「その通りだとも。ほら、あそこの男性なんていいんじゃないか?」
「どこです?」
「すぐそこだ。ほら、今入れ歯を磨いてらっしゃる」
「先輩? あれは私のお父さんより歳を召されているように見えますよ」
「恋に年齢なんて関係あるかね。国境だって関係ないのだから」
「それだとその内、恋に種族は関係ないとか言いそうですね」
「いいじゃないか。サバンナでオスのキリンのケツを追っかけている西園寺なんて、実に堂に入っている」
「それじゃあ先輩は川原で石ころ相手に愛を語っているのが似合っていますよ」
「種族を超えただけでは石ころに恋はできないだろう」
「恋は物質の境界をも超えます」
「言ってることは格好いいんだがね」
 この日の二人というのは、隣県にいるかつての同僚を訪ねるという目的から帰宅するところでした。
 西園寺には直接面識のない人間ではありましたが、彼とは一年あまりを共にした上司なのです。
 その上司というのが女性だったのですが、面識のない西園寺を連れて行った理由というのがそこにあるわけなのです。
「來背(くるせ)さんと結局何をお話になったんですか。二人きりにしろと言われたことが数度ありましたけど、わかっていますか先輩。來背さんは寿退社なさったんですよ? 先輩にはなんの勝ち目もないのですからね」
「そうやって色恋の話に持っていくほど甘酸っぱい関係じゃなかったな、僕と彼女とは。いやなに、少しばかり、お前がいては都合の悪いことを――彼女にお前を直接見てもらった上で――聞こう、という目的を果たしただけさ。気にすることじゃない」
「そんなにはっきり言われて気にしない方が無理です。教えてください」
「こら、やめる
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