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薬剤師
第九章

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第九章

「まあ気にしないで下さい」
「今更気にしないでっていうのも」
「それにしても。失敗したよ」
 あらためて困った顔で項垂れるヴォルピーノだった。
「完全に先を越されたよ」
「ああ、そうだった」
 言われてこのことにもやっと気付くセンブローニョだった。
「グリエッタ、何時の間に」
「先手必勝だからね」
 そのグリエッタが楽しげに笑って彼に返す。
「おじ様、残念でしたわね」
「ううむ、結婚してしまったからには仕方がない」
 センブローニョもこれ以上は突っ込もうとしなかった。
「まあ御前とメンゴーネの結婚を認めよう」
「有り難うございます」
 そのメンゴーネがにこやかに笑って言葉を返してきた。
「絶対に幸せになりますから」
「当たり前だ。グリエッタを不幸にしたらわしが許さんぞ」
 このことは念押しするセンブローニョだった。
「何があってもな」
「はい、それじゃあ」
「まあなってしまったものは仕方がないか」
 ヴォルピーノも諦めていた。
「女の子は一人だけじゃないしね」
「そうだな。女の子は一人だけじゃない」
 センブローニョも彼の言葉に頷く。
「別の女の子を探すとするか」
「ええ、そうしましょう」
「じゃあグリエッタ」
「ええ、メンゴーネ」
 二人は互いに顔を向き合い笑みを浮かべていた。
「これからもずっと一緒にね」
「楽しく過ごしましょう」
「色々あったけれど結婚したのはいいことだよ」
 ここでこう言ったヴォルピーノだった。
「皆今日の仕事が終わったら」
「ええ」
「今日の仕事が終わったら」
「僕が御馳走するよ。御馳走とワインで」
 それを御馳走するというのだった。
「祝おう。それでいいね」
「おお、それは結構なことだ」
 センブローニョが早速乗り気になっていた。
「では今夜は二人を祝福して」
「飲んで食べましょう」
「うん、そうするか」
「じゃあグリエッタ、二人のこれからを祝福して」
「乾杯ね」
 こう言い合って早速ヴォルピーノの招待するその宴に向かう四人だった。何はともあれ奇妙な騒ぎは祝福の宴に変わりそれで終わるのであった。


薬剤師   完


                 2009・9・7

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