『転生。 或いは、交差する赤と紅』
EP.02
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なのだからな」
静寂に靴音が響く。 一歩、また一歩。
男が来る。 愉悦に表情を歪ませた男が、俺の方へと歩いてくる。
―――逃げ、なければ。
―――だけど、どこへ? いや、どうやって?
ひゅうひゅうと掠れた音が喉を鳴らす。 俺の呼吸。 微かな、僅かな。
動けない。 力を込めたはずの四肢は、僅かに痙攣するだけで。
やばい、やばい、やばい、やばい。
一歩、また一歩。 男が来る。 蹲る俺の方へと、濃厚な死のにおいを伴って。
コツリ、と。 一段と大きな靴音が鳴った。 目と鼻の先、僅かな距離で。
見上げれば、そこにはやはり男の姿。
這い蹲った俺を嘲笑うように、男がそこに立っていた。
「ギ、ギ、ギ……」
「……ほう。 思ったよりも元気そうではないか。 なあ、小僧?」
見上げる俺、見下ろす男。 およそ対等とはいえない両者の関係。
まるで、罪人と処刑人だ。 ……いいや、あながち間違いではない。
まさに今、この瞬間、俺の命はこの男の手中にあった。
ヂヂ、ヂヂヂヂヂ。 音が響く。 男の手の中で、灼光の紡ぐ死の音が。
「それでは、もう一撃だ。 今度こそ、確実に仕留めさせて貰うぞ」
光の槍を握り締め、男がその手を振り上げる。
今度こそ間違いなく、トドメを刺すつもりなのだろう。
―――なんで。
―――なんで、こんなことに。
あまりにも理不尽な状況。 迫り来る死の脅威。
……もう、駄目かもしれない。
諦めが、絶望が、胸中を埋め尽くす負の感情が、俺の心に突き刺さる。
「終わりだ」
男が宣告する。 無慈悲に、冷徹に。
嘘。 嘘だろう? 死ぬのか、俺は?
こんなところで、わけもわからずに?
―――イヤだ、絶対に。
―――諦めるなんて、そんなことはっ!!
僅か数十センチの距離、熱を伴った光が視界を埋めていく。
その、ほんの少しの刹那。
「そこまでだ」
声が、聞こえた。
おそらくは少女の、どこかで聞いた覚えのある声。
同時にひゅうと、風を切る音。 鋼色の何かが、男に飛来し襲い掛かる。
何か。 霞む視界を凝らして男を襲った何かを見る。 ……あれは、虫か?
いいや、確かにアレは虫だ。 虫の、はずだ。
知識にない、見たことのない姿形をしているが、そのデザインは虫を連想させる意匠をしている。
ザクリ、と。 その前足、大きく鋭い鎌を走らせて。
俺の拳より一回りほど大きな虫が、男の右腕を切り裂いた。
「ガアァああああッ!!」
男が悲鳴を上げる。
文字通り、その身を裂かれるほどの痛みに男は声を震わせる。
「さて。 どうやら間一髪といった様子みたいだね、イッセー君」
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