『転生。 或いは、交差する赤と紅』
EP.02
[3/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
まい。
そして意気揚々と返事をするために足を運び、あっさりと裏切られた。
―――きゅっ、と。 不意に心臓を締め付けたような感覚に襲われる。
なんか、似ている。 夢で見た夕麻ちゃんと俺の関係と。
初心な感情を弄ばれて、奪われ、捨てられたという点で俺と元浜は一緒だった。
尤も、奪われたものに関しては多少どころではない差異はあるが。
……いや、夕麻ちゃんのことはもう忘れよう。 きっと、そのほうが俺の為だ。
色々と腑に落ちないことはあるが、あれは幻想だったのだろう。
天野夕麻なんて人間は、どこにも存在しないのだから。
―・―・―・―
元浜と別れて、数分。
暗い夜道、自宅への帰路を歩く俺は酷く、酷く疼いていた。
夜。 夜の感覚。 五感が研ぎ澄まされ、体の奥底から得体の知れない何かが沸いてくるような不可思議な感覚。
例の、アレだ。 夜限定の超感覚。
俺はその圧倒的な開放感に、大きく息を吸い込んだ。 ……おかしい、やはり。
日中の気だるさが嘘のように醒め、全身の神経が覚醒したかのように心身が高揚している。
見える。 街灯の照らし出す光の外、深い闇に飲み込まれた街の景色が鮮明に。
聞こえる。 周囲に並ぶ住宅の壁の向こうで、会話する家族の声が明確に。
見えないはずのものが、聞こえないはずの音が。 確かに見える。 確かに聞こえる。
鋭敏となった視覚と聴覚は、夜闇に飲まれて消え去るはずの情報を、残さず、余さず拾い集めた。
……だからこそ、俺はその存在に気が付いた。 背筋に走る悪寒と共に。
―――見られている、何者かに。
先程から感じている誰かの視線は、間違いなく俺を見ている。
いや、これは見ているなんて表現では生ぬるい。
……感じるのだ、視線の向こう側に冷徹なるその意思を。
眼前。 数メートル先の路地の角。
その角の直前で俺の両足は歩みを止めた。 ダメ。 ダメだ、その先に行っては。
そこにいる、確かに。 路地の影に潜む何者かを、鋭敏化した俺の感覚は間違いなく捉えていた。
酷く、“におう”。 いいや、嗅覚は捉えていない。 何も。 何も。
ただ、なんとなく。 俺はこの未知なる感覚を、“におい”として認識していた。
その他にこの感覚をどう表現すればいいのか判らなかったし、それ以外の表現を模索するほどの余裕は俺にはなかった。
「ほう? これは、これは」
コツリ、と。 靴の音を響かせて、路地の角から一人の男がその姿を覗かせた。
男が来る。 スーツを着た体格のいい男が、立ち止まった俺に向かって歩いてくる。
ガクガクと。 ブルブルと。 身体の震えが止まらない。 止められない。
男が見ている。 いいや、睨んでいる。 この俺を。 怯え、震
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ