第一話
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況は絶望的ではないのか?
人はいる。ここにずっと突っ立っているせいか、周囲の好奇の目は肌に痛いが、それが直接命を削ることはない。代わりに精神は削られているが、気にしていられない。
人がいるということは、助けを求める事ができるということだ。
なるほど、絶望とは程遠いのかもしれない。
だが、現実には違うのだ。
自分が故郷に帰る算段がつかない点では、やはり絶望に等しい環境である。
普通の人間なら、こんな状況に置かれたらどうなるだろう。
狂ってしまったのかもしれない、と考えるのか。
目の前の現実が、確かに眼を開けて見ているはずの事実が、どうにも現実離れをし、現実味を帯びていない。
狂った結果、こんな妄想染みた、無駄に現実感のある世界を自分の脳内に創りだしてしまったのではないか。
しかし、煉夜は中途半端に強い芯があってしまった。
『これは夢だ。現実ではない。今、自分はあり得ないほどリアルな夢を見ているのだ』と、逃避できれば心の安静は保てるはずなのに、冷めてしまい、覚めてしまった自分は、これが現実であると冷酷にも告げている。
いっそ、狂ってしまっていれば楽だったかもしれない。
見なくていいリアルを、遠く意識の彼方に置き去り、ここでは夢であると信じて、或いは狂じて、第二の人生を送っているかのような、ゲーム感覚でいられたかもしれない。
なんて楽なことだろうか。
考えずして、自由気ままに生きて、死んでもきっと元の場所へと帰るだけで、何の不利もないと不安も恐怖も感じずに終われたかもしれないのに。
しかし、煉夜は中途半端にリアリストだった。
ここは夢だ夢だと己に嘘を信じこませようとも、心の奥底は、彼の脳はそれを否定し、切に現実だと訴えかけるのだから。
だからこそ、絶望的な状況下において、煉夜の心は絶望しきれていなかった。
どこかに帰る方法があるのではないかと甘い願望と期待を賭けずにはいられない。
つまるところ煉夜は、
(夢も希望もない話は大嫌いだからね)
簡単に諦めることをせず、状況に屈することも絶対にしない、自分のハッピーエンドがねじ曲げられるのをとにかく嫌う我儘な性格の持ち主であった。
ここはどこですか、と素直に問うことは常識的には非常におかしい。自分の居場所が分からないなどとは、笑い草ではなく変人か迷子の扱いになる。迷子と勝手に捉えられれば、面倒が嫌いな人であれば、迷子を預けられるような場所を教えてくれるだろうし、世話好きな人なら親切にも行き先へ案内してくれるだろう。
迷子として預けられた場合は、同じく行き先を問われたりするか、もしくは不審な点があれば身元を疑われたりするかもしれない。煉夜の居た世界の警察なら、まず間違いなく身元確認から始まりそうだ。
行き先はどこか
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