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東方守勢録
第十二話
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か、あるいは姿を消しているだけなのかはわからないが、何かが存在しているのは確かだった。


(どうやら覚えているようだな?)

「まあ……一応」

(意識がもうろうとしていたというのに……よく覚えていたものだ)


男の声は感心しているようだった。


「あんた……誰だよ?」

(誰……か……まだ話すのは早いかな?)

「早い?」

(そうだ。いずれその時が来る)


男の声はそんなことを言っていたが、俊司には遠まわしに避けているようにしか聞こえなかった。問い詰めようにも無駄だと考えた俊司は、とりあえず話を進めた。


「で? なんで今回出てきたんですか?」

(……お前の決意についてだ)

「!」


決意と言われた瞬間、俊司は体をビクッとさせて反応していた。


(……図星か)

「まだ……何も言ってないんですが?」

(言わずともわかる)


そう言って男は一度溜息をもらした。


(……やめておけ。復讐など、無駄な考えにすぎん)

「!!」


男の声は呆れたようにそう言った。

俊司は図星だったのか、驚きの表情を隠せずにいた。復讐という文字。それはいまの俊司の感情に最も近い言葉だった。由莉香を殺したあの男を、自分の手で決着をつけることしか考えていなかった。

妖夢に近距離戦を挑んでいたのも、その男に対しての対策の一つだった。相手はほぼ全範囲での攻撃も可能であれば、近距離からの攻撃もできる。俊司はそれに対抗できる能力がほしかっただけであった。

だが、今聞こえてくる男の声は、そんな少年の考えを否定していた。無意識に冷や汗がでてくるほど、俊司の思考は回り続けていた。


「なんで……ですか?」

(戦いに復讐の念は無意味だと言いたいのだ)

「無意味……? ふざけんな……お前に何がわかるって言うんだ!」


俊司は声を荒げてそう言った。だが、男の声はそれに臆することなく話を続けた。


(言いたいことはわかる。かつて異性として好きだった親友を目の前で殺された。復讐しようと考えることは妥当かもしれない)

「だったら」

(だが、勘違いしてないか? 今少年は何のためにここにいる?)

「……」


俊司がここにいる理由は、幻想郷を守るためだ。決して復讐をするためにいるわけではない。俊司自身もそれはわかっていた。

だが、それでも由莉香を殺した男を許すことはできなかった。


「理由なら……わかってる」

(……それを考慮したうえでの考えか?)

「はい」

(そうか……なら、好きにすればいい)


あれだけ反対していた男の声も、もはや無駄だと感じ取ったのかそう言っていた。

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