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薬剤師
第六章
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第六章

 そこに丁度いい具合にグリエッタが来た。センブローニョは彼女の姿を認めるとすぐに声をかけたのであった。
「おお、話は聞いておるな」
「おじ様が私と結婚なさることですね」
「その通り。それでよいな」
「ええ、いいですわ」
 にこりと笑って両手は腰にやって答えてみせた。
「喜んで」
「子供は素直が一番じゃ」
 今のグリエッタの言葉に顔を崩して笑うセンブローニョだった。
「では公証人がそろそろ来るからのう」
「はい」
(さて、メンゴーネ) 
 グリエッタは彼に応えながら内心恋人のことを考えていた。
(打ち合わせはしたしその通りにやってね)
 今の彼女の心の中での言葉は当然ながらセンブローニョには聞こえない。センブローニョが今か今かと待っている間に店の扉が開いた。そうして入って来たのは。
「お待たせしました」
「おお、来たか」
(来たわね)
 センブローニョは正装した若い男を見て声をあげた。眼鏡をかけ変な髭を顔中に生やしているが少し見ればメンゴーネとわかるものだった。ここでもグリエッタの心の言葉は聞こえないセンブローニョだった。
(じゃあ上手くやってね)
「公証人さんですな」
「如何にも」
 その公証人に化けているメンゴーネが勿体ぶった動作で応える。その間しきりに目と目で話をする彼とグリエッタであった。それから彼はまたセンブローニョに言ってきた。
「そしてセンブローニョさん、お話ですが」
「はい」
 センブローニョはにこやかに彼に話そうとする。しかしここでもう一人店の中に入って来たのであった。
「御機嫌如何でしょうかセンブローニョさん」
「えっ!?」
「誰っ!?」
 ここでメンゴーネもグリエッタ思わず声をあげてしまった。何ともう一人正装した男が出て来たのである。驚かずにはいられなかった。
 見ればやけに鼻が高く不自然なことこの上ない赤い長い髪の毛である。おまけに顔はやけに黒く鼻が高い。二人はその鼻を見て誰か察した。
「ひょっとして」
「ヴォルピーノさん?」
「お待たせしました、僕が公証人です」
「何を言ってるんですか」
 メンゴーネは咄嗟にそのヴォルピーノに対して返した。
「僕が公証人ですよ」
「いいえ、僕ですよ」
 だがヴォルピーノもこう返すのだった。
「僕が公証人ですよ」
「それは間違いです、僕です」
「僕ですよ」
「ええい、どっちかはもういいから」
 これまた随分なことを言うセンブローニョだった。
「とにかく証明書ですが」
「あっ、はい」
「それですよね」
「それはありますか?」
 このことを二人に対して尋ねるのだった。
「それで」
「はい、あります」
「僕の方も」
 こう言ってそれぞれ証明書を差し出す二人だった。だがその証明書には。

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