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とある偽善者の日常
プロローグ

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「疫病神!」

そんな声が聞こえた。

「お前のせいで……!」

その声は次第に数が増えていった。最初は偶然を装おって投げられてきた小石も、今は明らかに俺を狙っていることが分かる。

最初は近所の幼なじみ。次は幼稚園の友人。あげくに果てには、見知らぬ大人にまで醜いものを見るような目付きで睨み付けられたりもした。

それでも、俺は諦めなかった。……いや、諦められなかった。何度も自分から喋りかけた。そのたびに、蹴りあげられた砂利が口のなかに入り、投げつけられた小石が額に当たった。

その内、俺は諦めてしまった。そう、「不幸」なのだから仕方がないと……。

毎回家に帰るときは、愛想笑いを浮かべて両親に悟られないようにし、いもしない友人の話を両親に語って聞かせる。そんな生活を送っていたとき、ついに見つかってしまった。

家に帰って、リビングに行くと父さんに呼ばれた。

「……当麻」

何を言われるんだろうか。気持ち悪い?疫病神?死ね?消えろ?……気付いたら言葉を発していた。

「……ごめんなさい……、ごめんなさい……、……ごめんなさい」

涙は出なかった。ずっと俯いて、それだけを呟いた。

すると、父さんが立ち上がり近づいてきた。……殴られるんだろうか。ぎゅっと目を瞑ると、浮遊感と共に体中を温もりが包み込んできた。それが、父さんに抱き抱えられたからだと分かると、父さんが言った。

「……泣いても良いんだ。我慢するな。お前には父さんと母さんがついてるから」

その日、俺はこの世に生を受けた日から、覚えている限りでは二度目であろう涙を流した。

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