第三十二話 その始まり
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れ一枚出さない……」
親っさんがぼやくと副長官がまた溜息を吐いた。親っさんの親友って結構大変だよな、おまけにローエングラム公の部下なんだから……。
帝国暦 489年 9月11日 オーディン ゼーアドラー(海鷲) アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト
「ようやくこうして酒を酌み交わす事が出来ました」
「確かに……、一度は亡命を試みた事を思えば不思議ではあるな」
メルカッツ提督の言葉に俺は無言で頷いた。不思議ではある、亡命が成功していれば戦場で殺し合う事になっただろう。いや、あの時俺自身処刑される事も有り得たのだ。今こうして酒を酌み交わしているのは不思議としか言いようがない。
「皆がメルカッツ提督と話したがっていますよ。でも今日は私に譲ってくれました」
「……気を遣わせたようだな」
賊軍としてローエングラム公と戦った。不本意な戦いだった、最後まで自分の思う様な戦いは出来なかった……。その事が何処か胸の奥で澱んでいる。
おそらくは閣下も同様だろう。その事がローエングラム公に素直に従えなかった理由のはずだ。俺のように割り切ることが出来なかった……。黒姫の頭領はそれを察していたな、その上でローエングラム公に閣下を預かると申し出た。冷徹なだけではない、情もあるようだ……。
「昨日は御家族と一緒だったのでしょう、御元気でしたか」
「元気だった。だが心配したのだろうな、妻は少し痩せた様だった……」
「そうですか」
「……亡命しないで良かったと思っている、戻ってきて良かったと……」
「……」
誰に聞かせるでもない、呟く様な声だった。話題を変えた方が良いだろう。
「辺境は如何でしたか?」
俺の質問にメルカッツ提督が微かに笑みを浮かべた。どうやら話題を変えた方が良いと思ったのは俺だけでは無い様だ。閣下がグラスを口元に運び一口ウィスキーを飲んだ。閣下も俺もウィスキーをロックで飲んでいる。
「活気が有るな、オーディンの様に発展してはいないが活気が有る」
「オーディンも改革が始まってからは活気が有ると思いますが」
「辺境はそれ以前から活気が有った」
「なるほど」
辺境は辺境にあらず……、メックリンガー提督が言っていたがどうやら本当らしい。疑うわけではないが実際に辺境に居たメルカッツ提督の言葉に改めてそれを実感した。
「メルカッツ提督は黒姫の頭領をどう見ました?」
「気になるかな、ファーレンハイト提督」
ちょっとからかう様な口調だ、思わず苦笑が漏れた。
「気にならない人間など居ないでしょう」
「皆が私に会いたがっているのもそれが理由か」
「それだけではありませんが……」
メルカッツ提督が軽く笑い声を上げた。ふむ、機嫌は悪くないようだ。
「卿らはどう見ているのだ」
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