第九章
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第九章
「一、二の」
「三っ」
「よしっ」
三人力を合わせればすぐであった。イニーゴはこれまでの二人の苦闘が嘘のようにあっさりと時計から出ることができた。時計から出た彼はまずはほっとした顔になって三人に礼を述べるのであった。
「いや、有り難う」
「いえいえ、御礼には及びませんよ」
「そうですよ」
だが三人はにこやかに笑って彼に述べるのだった。
「困った時はお互い様です」
「その通りです」
「まあこれは御礼です」
だがイニーゴはこう言って三人にそれぞれ懐から出した財布の中の金を手渡すのであった。
「助けてももらったのですから当然です」
「そうですか。それでは」
「有り難く」
「受け取らせて頂きます」
三人共金のことにはしっかりしていた。トルケマダは同時に時計の金まで受け取っていた。三人がその金を受け取ってからコンセプシオンは夫のところに来て言うのであった。
「おかえりなさい」
「ああ、只今」
まずはにこやかに挨拶をする二人であった。
「この時計が売れたよ」
「あら、そうなの」
看板にもなっているというその時計を指差して言う夫に対して応えた。
「売れたの」
「いい値段でね。けれどね」
だがここで寂しい顔になるトルケマダだった。
「折角時間を知らせてくれる時計だったのに。別の時計を出しておかないといけないね」
「その心配はないわ」
だがコンセプシオンはここで夫に告げるのだった。
「その心配はね」
「それはまたどうしてだい?」
「だって」
ここでまたにこやかに笑うのであった。
「これからはラミーロさんがね」
「ラミーロ君が?」
「ええ、そうよ」
ラミーロをにこりとした目で見ながらの言葉であった。
「毎朝私に時間を教えてくれるのよ」
「毎朝かい」
「そう、毎朝よ」
また言うのであった。
「だからお店の前に時計を出さなくても別にいいのよ」
「そうか。じゃあラミーロ君」
「はい」
ラミーロは関係を何とか顔に出さないように努力しながら彼に応えた。
「これからも頼むよ」
「わかりました」
「わかってるわよね」
ここでコンセプシオンがにこりと笑ってそっと彼に囁く。
「それでその時はね」
「ええ、わかってますよ」
ラミーロもひそかに笑って彼女に応える。
「それじゃあこれからは」
「宜しくね」
「さて、僕も」
ゴンサルベもそっとコンセプシオンに近寄って囁くのであった。
「宜しく御願いしますね」
「まあいいわ。貴方もね」
コンセプシオンは彼に対しても微笑んでみせたのだった。
「これからはね」
「ええ。そういうことで」
「さて。何があったのかは察しがつくが」
トルケマダはそんな妻と若い男達を見ても呑気なものであった。それ
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