第四章
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第四章
「それも一番いいのを」
「わかりました。それじゃあ」
ラミーロは素直に応えてまた店の中に入った。今度はコンセプシオンとこのイニーゴが二人になるのであった。
「少し待っていて下さいね」
「ええ」
イニーゴはにこやかにコンセプシオンの言葉に応えた。
「それでは暫く」
「はい」
「ところでです」
ここでイニーゴはその笑みを思わせぶりなものにさせてまたコンセプシオンに言ってきた。
「今日御主人は市役所に行っておられますね」
「はい、そうですけれど」
コンセプシオンはこの時は普通に彼に応えた。
「それが何か」
「御主人は時計の時間合わせに行っておられますが」
イニーゴの思わせぶりな顔と声は続く。
「これは私が市役所に頼んだのです」
「そうだったのですか」
「そうすれば御主人は店を離れる」
彼の笑みがさらに思わせぶりなものになってきた。
「そして奥様御一人となるので」
「それが何か」
「御会いできるので。ゆっくりと二人で」
目が次第に色目になってきた。少しずつコンセプシオンに近付いていく。その中でまたラミーロが戻って来たのであった。
「あの、奥さん」
「ええ。何かしら」
今はイニーゴの言い寄りにあえて無反応を装っていたコンセプシオンはここではラミーロに顔を向けることでその言い寄りをかわしたのだった。
「時計は見つかったのね」
「はい、見つかりました」
立派な懐中時計をコンセプシオンに見せて告げる。
「これはどうでしょうか」
「いいわね」
コンセプシオンはその見事な懐中時計を見て微笑んだ。
「これならいいわ」
「そうですか、それじゃあ」
「ただね」
しかしここでコンセプシオンはまた言うのであった。
「また一つ御願いしたいことがあるのだけれど」
「何ですか?」
ラミーロは素直な調子で彼女のその言葉に応えた。
「あのね、この時計だけれど」
「ええ、これですね」
「そう、この大きな時計」
ゴンサルベが入っているその時計を指し示しての話であった。
「これをお店の中に持って行って欲しいのよ」
「わかりました。それじゃあ」
「御願いするわね」
「すぐにでも」
「あっ、待って」
ところがここでまた言うコンセプシオンであった。
「私も行くわ」
「奥さんもですか」
「その時計はかなり重いから」
だからだというのである。なおこの時計にゴンサルベが入っていることはラミーロにもまだここにいるイニーゴにも全く言ってはいない。
「だからね。一緒に行くわ」
「わかりました。それじゃあ」
「私の部屋に持って行こうかしら」
コンセプシオンはこんなことも言った。
「ひょっとしたら合うかも知れないし」
「ええ、それじゃあ」
こうして二人は
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