第八章 望郷の小夜曲
第一話 ゆ、夢?
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。歳は二十代中頃に見えるが、キラキラとやんちゃな子供のように輝く瞳により、年齢よりも随分下に見せていた。
その後ろにいるのは、眉根を寄せて溜め息を吐く理知的な美貌を持つ二十代半ばの女性。白いワイシャツに黒いスラックスという女っ気のない服装からでも分かるメリハリの効いたスタイルは、十分以上の色気を放っていた。丸いメガネのブリッジを白く細い指の先で持ち上げ、目の前で元気よく声を上げる褐色の女の行動に、眉根を寄せ溜め息を吐いている。
一番後ろに立っているのは、白いワンピースを着た、ふわふわした雰囲気を身に纏った二十代半ばの女性。前を歩く二人を何処か困った顔を浮かべながらも、見つめる目は優しく穏やかであった。困ったように小首を傾げる度に、背中まで伸びた髪がゆらゆらと揺れている。
「ええいっ黙れ黙れっ! こちとら朝飯を食わずにここまで来たんでえぃっ! ネタは上がってるんだぜっ! さっさと士郎を出して飯を作らせやがれえぃっ!」
「蒔ちゃん言ってること無茶苦茶だよぉ〜」
「そう言ってやるな由紀恵。久しぶりに士郎に会えると興奮しているんだ。テレと恥ずかしさを勢いで誤魔化しているということだ」
「ななななっ何言ってやがるメ鐘っ!! あた、あたあたしが何で士郎に会えるかもしれないからって嬉しがっているっていいい、言うんだよっ!!」
「士郎が帰ってきているかもしれないと聞いて、にやにや気持ち悪いほどニヤついていただろう」
氷室の冷静な声に、蒔寺は勢い良く振り返ると、ワタワタと両腕を振り真っ赤に染まった顔でどもりながらも抗議の声を上げた。それを氷室は眼鏡のブリッジを押し上げ見つめ、にやにやと口の端を曲げ笑っている。
「ななな、何言って……っく、そ、そう言うあんただって、何時も以上に気合の入った化粧をしてっ!! し、知ってるぞっ! その野暮ったい服の下は、気合入れた勝負下着だってことをっ!!」
氷室にいじられ真っ赤な顔で怒鳴り声を上げていた蒔寺だったが、にやにやと笑う氷室を勢い良く指差した。蒔寺が口にした言葉に、氷室はニヤついた笑みを浮かべていた顔を真っ赤な染め上げ動揺の声を上げる。
「なっ!! ななな何でそれを知っているっ!!」
「へんっ! あんたが部屋で下着を床に並べて、うんうん唸ってるのを覗いてたんだよっ!」
ゴンゴンと額をぶつけ合い睨み合う二人。
「〜〜っっ!! 蒔の字ぃ〜〜ッ!!」
「〜〜っっ!! メ鐘ぇ〜〜ッ!!」
一触即発の二人。いつ掴み合いが始まるか分からない空気の中に、
「二人共……怒るよ」
「ご、ごめん由紀っち」
「……す、すまない」
にっこりと笑いながらの優しい声であったが、その下には何か固いものがあった。
今にも始まりそうであった空気は一瞬にして霧散し、二人は肩を
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