第八章 望郷の小夜曲
第一話 ゆ、夢?
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うろうろとさせる士郎の身体に手を回すと、優しく抱きしめた。
「……いっつも突然出て行って……戻ってくる時も……心配するんだから……寂しいん……だから……」
「……すまない……俺は……」
見つめ合う二人。二人の間に抜ける陽光が、段々と窄まっていく。
「……士郎」
「……凛」
覗く陽光が消える瞬間。
「何やってるんですか姉さん」
鋭くも粘ついた声がそれを止めた。
「「ッ!?」」
横から響いた声に、同時に飛び離れる士郎と凛。合わせるように、ぎりぎりと顔を声が聞こえてきた方に向けると、そこには包丁を片手ににこやかに笑うエプロン姿の桜の姿があった。
可愛らしい桜色のエプロンを身に付けた桜は、優しげに微笑むその顔に相まって、まさに新妻といった姿である。しかし、昔からさらに洗練された容姿は、清純な顔立ちでありながら、背筋をゾクリとさせるほど色気を纏っている。
「さ、桜」
「何ですか?」
そんな思わず見惚れてしまうほど可愛らしい姿であるが、士郎と凛は、別の意味で目を離すことが出来なかった。色々と理由はあるが、一番分かりやすいのは、二人の視線の先にあるそれ。二人の視線は、桜の右手に注がれている。そこには朝日にギラつく……包丁の姿が。
ヒクつく顔で、士郎は桜の右手にある包丁を指差す。指差す手が震えている。士郎の震える声の問いかけに、桜は笑顔で小首を傾げた。
「な、何で包丁を持っているんだ?」
「不思議なことを言いますね」
心底不思議そうな顔を浮かべた桜は、ゆらゆらと包丁を握る手を揺らしている。
「料理をするためじゃないですか?」
「いや、そうだが、俺が聞いているのは、台所でもないのに、何で包丁を持っているかと……」
「だから……言っているじゃないですか……料理をするためだって」
桜は未だ不思議そうな顔を浮かべながら、士郎の問いに答える。その視線は段々と士郎の横にいる凛に移動していく。凛は士郎と同じくカタカタと身体を小刻みに震わせている。
そんな姉の様子に、桜はうふふと笑うと、軽い調子で士郎に笑い掛けた。
「知ってますか士郎さん。猫って結構美味しいんですって。だからちょっと食べてみませんか? ほら、丁度いいことに……目の前に泥棒猫もいることですし」
「ちょっと待てえええええええええええっ!!」
「ご、ごめん桜ッ!! ひ、久々だったからちょっと舞い上がってて! お、落ち着きましょっ! ね、お願いだらか落ち着いてえええぇぇぇっ!!」
桜の暗い笑みに、二人が慌てて騒ぎ出す。
と、
「っぷっ」
そんな慌てる二人を止めたのは、その原因である桜の笑い声だった。
「あはははははは……あは……ふふ……もう、姉さんったら。冗談に決まって
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