第八章 望郷の小夜曲
第一話 ゆ、夢?
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―――っきろ……きろっ―――
遠くから聞こえる声に、士郎は沈んでいた意識が浮かび上がるのを感じていた。ぬるま湯の中にいるような、微睡みに揺られながら、ゆっくりと意識が覚醒していく。何時までも眠っていたいと思いながらも、遠くから聞こえる声に、目を覚まさなければという強い思いに押され、意識が覚醒に進む。
―――っきなさいって……―――
遠くから響く声は、段々と強く厳しくなっていく。士郎は、強く大きくなる声に焦りと恐怖を感じ、必死に起きようとするが、浮上する意識の覚醒は早まらない。
そして、
「起きろって言ってんでしょっ! この間抜けっ!!」
瞼が開き、目を覚ました士郎の視界に飛び込んできたのは、眠る自分に拳を振り下ろす、
「っぐはっ!?」
遠坂凛の姿だった。
「凛……いくらなんでも殴ることはないだろう」
「わ、悪かったわよ。でも、何時までたっても起きないあんたも悪いのよ」
日が差し込む縁側を歩きながら、士郎は前を歩く凛に文句を言う。
昔はツインテールだった黒髪は、今はストレートに伸ばされて目の前をサラサラと耳障りのいい音を立てている。前から美人だったが、歳を経るごとにその美貌は磨かれ続け、今ではもう圧倒される程の美しさをたたえていた。その美しさは、怒りでふくれていてもなお、人を魅力するほどの美しさがあった。
殴られた腹を撫でながら、恨み混じりの声を掛けるが凛は振り返ることなく大きく足音を立て歩いている。悪かったと口では謝っているが、むくれている様子が後ろからでもありありと伺え、そんな凛の様子に、士郎は恨みがましく睨みつけていた目を和らげると、ふっと口元に笑みを浮かべた。
「ま、確かにそうだな。起きない俺が悪かったな」
「っ……そ、そうよっ、あんたが悪いんだから……でも……」
不意に立ち止まる凛。士郎は何とか凛の背にぶつかるギリギリの所で止まる。
「おい、どうし――」
「……ちょっとやり過ぎた……ごめん……」
「―――ぇ……」
振り返った凛は、上目遣いに見上げ、微かに頬を染めながら小さく謝った。殴られた腹に手を当て、しょんぼりとした様子を見せる凛の姿に、士郎は戸惑ったように固まる。凛はそんな士郎の様子に気付いているのかいないのか、士郎の腹に触れる手を、ゆっくりと動かし始める。
「っ、ちょ、ちょっと待て凛っ」
「痛かった……わよね……うん……やっぱやり過ぎた……でも、本当にあんたが悪いんだから」
「……凛」
むくれたように文句を言いながらも、凛は腹を撫でる手を止めない。士郎は腹に触れる凛の手を止めようと手を伸ばそうとする。しかしそれは、泣きそうな凛の声で止められることになった。凛は戸惑うように視線を
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