第二幕その一
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姫君」
「今日も血を欲しておられるのだ」
彼等は誰にも聞こえぬように小声で囁き合った。
「今では我々も首切り役じゃ」
「首切り役人と同じくわし等も死なせる必要のない者達の首を刎ねる日々」
「昔はこうではなかったのに」
そして溜息をついた。
「静かなところで心を落ち着かせて書に親しんでいたあの頃」
「そんな時はもう戻らないのだろうか」
彼等は昔を懐かしむ顔で言った。
「花を見て清らかな泉を見る日々」
「そんな時もあったな」
「それが今どうしてこのようなことになったか」
話す度に憂いが増していく。だが話さずにはおれなかった。
「のう、覚えているか。サマルカンドの王子を」
一人が言った。
「ああ、凛々しい顔立ちの王子だったのう」
他の二人がそれを聞いて懐かしむような顔をする。
「だが首を刎ねられた。ビルマの王子もキルギスの王子も」
「皆生きておればその輝かしい未来が待っておったというのに」
「光眩い宝玉に身を包んだインドの王子もいたな」
「ああ、浅黒い肌が実によく似合っておった」
「ロシアの美しい毛皮を身に纏った王子も死んだ」
「そして今度は韃靼の王子か」
彼等は再び溜息をついた。
「一体何時までこうしたことが続くのじゃ」
後ろから刀を磨く音がする。彼等はそれを暗鬱な表情で聞いている。
「あの刃が刃毀れし折れる時かのう」
「それは一体何時のことじゃ」
「わからぬ。若しかすると永遠なのかも」
「そしてわし等は何時までもこの仕事を続けねばならぬのか」
彼等はうなだれるばかりであった。そうしている間に休息の時間は終わった。
「またやるか」
中央の一人が言った。
「うむ、処刑の準備をのう」
こうして三人は再び仕事をはじめた。こうして夜の謎解きと処刑への準備が整えられていった。
「若しも姫様の氷の心が溶けたなら」
誰もがそれを願った。
「この国は再び明るくなるというのに」
だがそれが叶わぬことであると誰もが思っていた。
「花が咲き蝶が舞う国」
彼等は皆心の中で思い出していた。
「我が国は再びそうなれるというのに」
そうこうしている間に太陽は沈んだ。そして夜となった。
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