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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
第2話 歓喜する魂
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したのだけれど、あなた教室をやめたんですってね」
「……うん、やめたよ」
「……どうして、と問い詰めたりしないわ。何をしようが伸一の勝手だもの。けれど」
「そんな深い理由はないよ。ただ……」
「ただ?」
一瞬黙り込む彼だったが、意を決したように口を再び開く。
「僕さ、たとえクラスがバラバラになってしまっても、3人で夜の帰り道を歩けるのが楽しかったんだ」
「……そうね。“私”も楽しかったわ」
「うん。――――紅葉ちゃんがバレエの楽しさを教えてくれた。……幸歌ちゃんが、躍ることの嬉しさを教えてくれた」
あの頃の時間は、色鮮やかだった。
私もそれを思い出して、軽く目を閉じる。
「紅葉ちゃんはいつも凄く厳しくて怖かったけれど、紅葉ちゃんがバレエを大好きなのはよく知っていたから、僕も精一杯頑張った。……たとえ上手く出来なくても、頑張ること自体が凄く楽しかったんだ」
伸一が立ち止まった。見上げれば彼の目はユラユラと切なげに揺れていて、私は何も言えなくなる。
「けれど幸歌ちゃんは引っ越して行ってしまって、紅葉ちゃんは……バレエが出来なくなってしまって、僕があの教室にいる意味はなんだろうって思って」
「それで……、やめてしまったの?」
「……うん、そうだよ」
……これはきっと、彼の優しさ。弱さ。
細い息が自身の口から漏れ出る。眉を八の字にしながら言葉を探し……、しかしどう言えばいいのか分からなった。
私は押し黙ったまま、ハンドリムの操作を再開した。知らず知らずのうちに、ポツリと言葉が漏れ出る。
「馬鹿ね」
それを聞いた伸一も泣きそうな表情で苦笑いを浮かべ、
「ごめん」
震えた声だった。深い、深い、暗い底を覗き込んだような、悲しみを孕んだ声音だった。
「本当、馬鹿だわ……」
「うん。知ってる」
「もう……」
私は瞑目し、――――しかしすぐに目を開けた。
「でもね、私、あなたのそういう所も嫌いじゃないわ」
伸一が両目を見開く。私は何も言わずに笑みを作り、彼から目を外して前を見据えた。
*
駅から一番近い大きめの公園。時刻は14時をちょうど刻んだ頃だ。
滑り台や鉄棒の周りでは小学校低学年の子どもたちが笑い声を上げながら走り回り、広い砂地では親子がキャッチボールをしている。
賑やかで穏やかな空間だ。私は口元を緩ませる。
視線を巡らせれば、大きな木の下に設置されたベンチに人影があった。読書中で顔は俯けられていたが、雰囲気は全く変わらない。今日会う約束をしている幸歌だ。ピンク色のワンピースを着ている。
私は伸一と顔を見合わせると、ゆっくり近づいて声を掛ける。
「久しぶり、幸歌」
少女の顔が上がる。ふわりと髪が風に舞った。
「あ、久しぶり紅葉――――って」
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