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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十七話 庭園は最後の刹那まで(下)
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っても言い訳にもならんのでしょうが、そう言わせていただきますよ」
と豊久が決まり悪そうに頬を掻くと茜はため息をついて云った。
「――あまり抱え込んでると後で辛くなりますよ?戦地から戻った後ですら」
「あぁ――そうですね。そうかもしれない、でも自分がどうにかできないと怖くてたまらないのですよ。それも夜も眠れない程に」
「寝床につかない駄々っ子みたいですね」と子供をあやすような口調で言った茜に
「ですね」と豊久も屈託なく笑った。
「だから苦手なんですよ、戦争は」


同日午後第二刻 駒城家上屋敷庭園
皇国陸軍中佐 馬堂豊久

 ――さてさて、喜ばれたのは良かったけれど、今の|美女(にゃんこ)の飛び入り参加で面倒事が動き出すだろうな。
と内心呟き周囲を見渡す。
――あぁ矢張り千早が目立ったみたいだな。
 少佐の階級を新たに得た佐脇家の嫡男が主家の育預の下へと歩いてくのが視界に入った。

「こんにちは、俊兼さん。先日は失礼を――」
とにこやかに話しかけながらも豊久の内心では愚痴が湧き出ている。
 ――この人も一々直衛に噛み付くのはもう止めればよいのにな。大体、まっとうな貴族将校が非ユークリッド幾何学的精神構造を持った人間と張り合っても仕方なかろうに。
「いえ、あの時は確かに駒州の者らしからぬ振る舞いでしたから」
 佐脇は軽く苦笑して答えた。
 ――あぁ、何だかんだで善人なんだよなぁ、この人。 欠点はあっても責任や苦労を兵にだけ押しつける馬鹿ではないし、ちょっと空気が読めない事もあるけれど基本的に優秀なお人好しなままだ。こんなんで守原と駒城の間で綱渡りするつもりだったのか?

「そういって下さるのならば幸いです」

――まぁいいや、いざとなったらこっちの動きを誤魔化す為の赤鰊にすればいいし。馬堂家はあくまでも現状は駒城側だからな。対西原工作はただの保険だ。
「あぁ、そうです。今、御育預殿の下に、若殿様・大殿様とも御知り合いの水軍統帥部の参謀殿がいらしてますから是非とも御挨拶をなさって下さい。この国難の時期に水軍の御方と親交を結ぶ事は大切な事でしょう?」
 と豊久が言うと彼の言いたい事が分かったのか佐脇も片眉を上げて
「あぁ、それは尤もですね。――ありがとう」と答えた

「いえいえ、それではまた後で」
羽倉嬢にも会釈をして少し離れた場所に一息つこうと向かう。

「御苦労なさっていますね」彼らから離れると茜が少し同情した様子で話しかけてきた。

「まぁ、子供の頃からあの通りでしたから。彼――新城と付き合いが長いと慣れますよ」
俺の言葉にくすりと笑い、窘めるように「新城少佐もなかなか難しい御方みたいですね。先程は聞きそびれたのですが――天霧中尉に何故あれほど?」
 
「えぇ、まぁ、その何と言います
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