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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十七話 庭園は最後の刹那まで(下)
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「俺はあの制度は好きじゃないが、お前がどう扱おうと、とやかく云うつもりはないさ。
まぁ、軍命の外まで殿下の家臣になるつもりがないのならば深入りしないように気をつけろよ」
「そうだな、だが無碍に扱うのも趣味ではない」
「そりゃあ大抵の男ならあの手の性格と見た目の輩を追い出せないだろうからな。まさしく理想の愛人だ――深入りするとろくなことにならない」
 最初はからかうような口調だったが、自身の言葉が何かを想起させたのか哀しそうに最後の一言をぼそり、と呟いた。
「・・・・・・」
 新城もさすがに言い返すことはできずに黙り込んだ。つまるところ彼女((かれ)らはそうあるべし、と教育されているのだ。豊久の言葉はある面ではそれを全否定しているようなものである。
「っと――まぁ万事は程度の問題さ。“人は高邁さと下劣さを持って初めて人たりうる、と大殿様も言っていただろ?まぁその匙加減で皆が悩むのだけれどな」
と露悪的なまでに俗っぽい言い方で新城に笑いかけると豊久は再び先を歩む婚約者と笹嶋一家の下へと歩いて行った。

「そうだ、君の子猫を後で見せてやってくれないか?家の子供達も楽しみにしているようでね」
 礼節から外れない程度に壁の華となっている中尉以外が皆、寛いでいるなかで笹嶋中佐が思い出した様に言った。
 当の子供達は母親の緊張がうつったのか両脇にちょこんと座り、弓月の令嬢があれこれと世話を焼いている。
「えぇ、お約束通り磨きをかけています。今呼びましょうか?」
「呼ぶのなら少し待っていてくれ。
軍人や駒州の方も多いし、騒ぎも広がらないと思うが、面倒事になりかねないからな」
 豊久が諦めた様に溜息をつき、席を離れていった。
「大丈夫なのか?」
「騒ぎは彼が治めますから。それに、彼も言っていましたが多くの剣牙虎が住まう虎城山脈に接する駒州では猫を飼う者も少なくありません。それに、軍人も数多く居る事ので、そう時間はかからないとおもいます」
 そう当然のように言ってのける育預に笹嶋中佐が苦笑する。
「彼も存外に苦労しているわけだな」

「器用者を気取っているように見えますけどアレは余計なところまで気を回して余計な苦労を背負いこむ馬鹿なのですよ。だからこそ僕とも長い付き合いなのでしょうが」
とどこか楽しそうに言う新城に笹嶋は、珍しいものを見たというかのように片眉を上げて笑った。
「それで二十年来の仲か、互いに山ほど文句を言い合ってきたのだろうな」

「えぇ如何にもされど勤勉で報われない哀れな陪臣は点滴穿石と忠告を続けたのですが。
御育預殿は馬耳東風とこの調子でしてね」
 菓子を山盛りにした皿を持って豊久が戻ってきた。
「残念ながら貴様の云ったことで頷いたのは“他人の言う事を鵜呑みにするな”くらいでな」

「酷いな――
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