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トゥーランドット
第三幕その五
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第三幕その五

 それは一瞬であった。カラフはトゥーランドットから唇を離した。
「ああ・・・・・・」
 彼女は強張っていた。カラフの唇が離れてもまだ震えていた。
「これは一体・・・・・・」
 トゥーランドットはようやく言葉を発した。
「姫よ、これこそが我が胸にあったものです」
 カラフは彼女を見据えて言った。
「これこそが愛、それが今貴女の氷の様な心を溶かしましょう」
「そんなことが・・・・・・」
 トゥーランドットはまだ震えている。そして必死にそれにあがらおうとする。
「あがらおうとしても無駄なこと」
 カラフはそれを見て言った。
「何故ならこれは貴女が怖れ、待ち望んでいたことなのだから」
「戯れ言を・・・・・・」
 だがそれが戯れ言であると否定は出来なかった。
「戯れ言ではありません。それは貴女が最もよくお解りの筈です」
「ああ・・・・・・」
 カラフはトゥーランドットの側にいた。そして彼女を見守っている。
「さあ、今こそご自身の心を開かれるのです」
「いえ、私の心は既に・・・・・・」
 反論しようとする。だが出来なかった。
「そう、既に溶けようとしているのです」
 カラフは言った。その通りであった。
「そんな、私の心が溶けるなどと・・・・・・」
 空は次第に白くなっていく。それはまるで彼女の今の心を表すかのようであった。
「闇が晴れました」
 カラフはその空を見上げて言った。
「遂に朝となったぞ!」
 そこでそれまでカラフの名を探し求め今はリューを弔っている者達もカラフを支持していた者達も思わず声をあげた。
「あの若者が勝利を収めたのだ!」
「そう、私は勝った」
 カラフはそれを聞いて呟く様に言った。
「そんな・・・・・・」
 それを聞いたトゥーランドットは絶望しきった顔になった。
「そう、月も星も消え去った。夜の帳は最早空にはない」
 カラフはトゥーランドットに話しかけるようにして言った。
「私はもう終わりなのね・・・・・・」
 彼女はそう言うとその場に両手をついてうなだれた。
「姫よ、それは違います」
 カラフは彼女に言った。
「そんな慰めなど・・・・・・」
 彼女は首を横に振って言った。
「今の私はただの弱い女・・・・・・」
「人は皆弱いものなのです」
 カラフはそれに対して言った。
「ですがその弱さを知り克服出来るのも人間なのです。愛によって」
「愛で・・・・・・」
「そう。人は愛により結ばれ互いを助け合います。そして弱さを克服するのです」
「そんなことが出来るのでしょうか・・・・・・」
 トゥーランドットは顔を上げた。そして弱々しい声でカラフに対して言った。
「出来ます。貴女は愛を知るべき人なのです」
「私が・・・・・・」
「そう、
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