暁 〜小説投稿サイト〜
トゥーランドット
第三幕その四
[1/3]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第三幕その四

「いえ、絶対に言うことなど!」
「やりなさい」
 再びリューの腕が締め上げられた。
「ああっ!」
「それにしても何故これ程までに耐えるのか。一体何がこの娘を支えているのか」
 トゥーランドットは不思議そうにリューを見て言った。
「姫様、貴女にはおわかりにならないでしょう」
 リューはトゥーランドットを見据えて言った。
「それは人を想う気持ちなのです」
「何っ、リュー・・・・・・」
 カラフはこの時はじめて彼女の気持ちに気付いた。
「人を想う気持ち・・・・・・」
 トゥーランドットはその言葉を呟いた。
「そうです。そしてその強さもおわかりにならないでしょう」
 リューは彼女を見据えたまま言う。
「私の気持ちはただ一つ、その為に今まで生きてきました。ですがそれもここまで。私はこの想いを姫様、貴女にお譲り致します」
「・・・・・・・・・」
 トゥーランドットはそれを黙して聞いていた。
「殿下、お幸せに」
 兵士達の手が緩んでいた。リューはそれを振り解いた。
「あっ!」
 そしてそのうちの一人から刀を奪い取るとそれで自らの胸を突き刺した。
「リュー!」
 カラフはそれを見て思わず叫んだ。
「何ということを!」
 それを見た民衆も宦官達も口々に叫んだ。
「姫様、その氷の様に凍てついた心も殿下の想いの前には無力です。すぐに溶けその下から真の心が出て来るでしょう。それを怖れずに。そして貴女が真の幸福にお目覚めになることを祈ります」
「リュー、もういい。それ以上は言うな」
 カラフはリューに対して言った。
「殿下・・・・・・」
 リューはカラフを見て微笑んだ。その口から血が流れ出た。
「お別れの時が来ました。ずっとお側にいたかったのですがそれは叶えられなくなりました。けれど・・・・・・」
「けれど・・・・・・」
 カラフは彼女から目を離さなかった。
「私のことをずっと忘れずにいて下さい。それだけで私は満足です」
「誰がそなたを忘れられようか。私は何時までもそなたのその心を己がうちに留めておく」
「その一言だけで私は満足です・・・・・・」
 そう言うとその場に倒れ伏した。
「夜が明けようとしていますね」
 見れば空が次第に白くなりだしている。
「私も消えるとしましょう。夜明けの星と一緒に」
 そう言うとゆっくりと目を閉じだした。
「殿下、末永くお幸せに・・・・・・」
 そしてリューは息絶えた。
「リュー・・・・・・」
 兵士達はカラフから手を離していた。彼はリューの遺体に歩み寄り抱き締めた。
「折角朝が来ようとしているのに・・・・・・」
 ティムールも彼女の亡骸を抱いて泣いた。
「今までご苦労だった。もうそなたを苦しめる者はいない。だから・・・・・・」
 
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ