序章
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月明かりに照らされた森の中を草木を掻き分け、一人の男が走っていた。
彼の心中に巡る単語は一つ、死。
このままだと、間違いなく死ぬ。
追いつかれたら――――殺される。
「はぁ、はぁっ……!」
彼の足を進ませるのは、後ろから迫り来る一つの脅威。
男自体はこの世界である意味名の通った、あるギルドの一員なのだ。
彼自身も、相応の実力はある。
しかし。
抵抗など無駄だった。
まず、剣を抜いた右腕を、肩口から鎧ごと斬り落とされた。次いで、返す刀で右肩から左の脇腹にかけてを袈裟斬りにされたのだった。
しかも、それを行ったのが、たった一本のダガーなのだ。
「……化物が……!」
「――――そうだな。だが、アンタよりも、遥かにマシだと思うがね」
その声を聞いた直後、男の背筋に冷たいものが走った。
勢い良く振り返ったが、しかしそこには誰もいない。
「お、俺が何かしたのかよ!?」
「さぁな。少なくとも、さっきまでオレ達は初対面だった」
「だ、だったら―――――」
「でも、アンタが殺人を犯したっていう事実は変わらない」
そこで、男の視界に入ってきたのは、暗い森から出てくる蒼い服に身を包んだ少年だった。
瞳は青で、髪は黒。右手のダガーだけが、月光を弾いて銀の光をまき散らしていた。
「お、お前は……何者だ」
「……シキ。それが、オレの名前」
「し、シキだって……!?」
男は思わず、生唾を飲み込んだ。
シキというプレイヤーは、彼のギルド――――否、このゲームでは有名な名前だった。
このゲーム、ソードアートオンラインにおいて、バグは無いと考えられてきた。だが、それは違った。
バグによって、ある種チートじみたスキルを持つプレイヤーが居ることが判明している。
そして人数は定かではないが、噂ではこのシキという少年もバグに依って生まれたスキルを持つらしい。
「……単刀直入に言おう。アンタは《軍》に見捨てられた」
言い捨てて、死神が近づいてくる。
「や、やめてくれ」
「アンタは《軍》の規律を破り、同胞を殺して《笑う棺桶》に入った。当然だよな。同胞を殺した奴が《軍》に居られるはずがない。とはいえ、《軍》は《ラフコフ》に入ったアンタを恐れた。アンタ個人じゃなく、《軍》の情報が漏れることを恐れた」
男は腰を抜かして動けないでいる。
そんな男に、シキは冷たい一瞥を寄越すと、彼が目の前に立ち止まった。
「こ、殺さないで……」
「……《軍》は、アンタ一人を殺すためだけに、オレを雇った。それだけ、《軍》にとってアンタは脅威だった。だが、逃避行もここで終わり。ここがアンタの墓場だ。安らかに眠りな」
「ま、待ってくれ! な、なんでもやる! 金も装備も、命以外は何でもやる! だから――――」
みっともなく命乞いを始めた男
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