『転生。 或いは、交差する赤と紅』
Prologue
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。 しかし、痛みは感じない。
こんなにも。 こんなにも大きな傷だというのに。
傷に触れた手のひらを見る。 紅い。 紅い。
血の色。 肌を塗りつぶす鮮血の紅。 全部。 全部が俺の血だ。
紅。 ふと、その色を切っ掛けに思い出す。
今わの際に、俺が頭に思い浮かべたのは一人の少女の姿だった。
色鮮やかな紅い髪のあの美人。
学園で見かけるたびに目を惹きつける、鮮烈な紅い髪の美しい先輩。
―――どうせ、死ぬのなら。
―――あんな美少女の腕の中で死にたかった、かな。
ささやかな願い。 ある意味、男らしいとさえいえるであろう願望。 欲望。
唇が引き攣る。 嗤った、つもりだ。
人生の最後に思い浮かべたのが、自慢の彼女ではなく赤の他人の姿だなんて。
……ああ。 いいや。 そういえば、俺を殺したのは夕麻ちゃんだったっけ。
こんな目に合うって判っていれば、多少強引にでも胸を揉んでおけばよかったな。
ははっ。 ははは。 もうすぐ死ぬって言うのに最後までエロ妄想かよ。
視界が霞む。 目に映った景色、その輪郭が崩れていく。
終わる。 俺が終わる。 ここで、こんな場所で。 畜生。 畜生。 畜生。
振り返る人生。 薄っぺらで、くだらない俺の生涯。 けれど。 けれど。
―――けれど。
―――もしも、この身が生まれ変われるのなら、俺は。
「あなたね。 私を呼んだのは」
突然だった。
視界に映りこんだ誰かの影が、俺に声をかけてきた。
誰だ、いったい。
霞む視界が捉えるのは曖昧に映る輪郭だけで、もう誰かすら判らない。
「死に―――ね。 ―――、お――――――って―――の。 ――――――――わ」
クスクスと笑いながら。 影が、何かを言っている。
何。 何を言っているんだ? よく、聞こえない。
困惑する俺を、しかし影は解することなく、ポケットから何かを取り出す。
影の指先で踊る紅い何か。 紅い欠片。 あれは、いったい何だろうか?
しかし、ギリギリのところで保っていた意識が、そこでついに限界を迎えた。
「―――なら、――――――わ。 ――――の――。 ―――――に―――――――さい」
意識が途絶える寸前。
俺の目に映りこんだのは、目の前で揺れる色鮮やかな紅い髪だった。
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