『転生。 或いは、交差する赤と紅』
Prologue
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た感じだったのよ」
少女的な愛嬌のある声ではなく、女性的な色香の漂う妖艶な声音で彼女が言う。
嘲るように口元に冷笑を浮かべる彼女は、まさしく獲物を捕らえた猛禽のように見えた。
ヂヂ。 ヂヂヂヂヂ。
音が響く。 重い音。 耳鳴りに等しい音。
同時に、それは彼女の手の中に現れた。
光が。 集まる光が形を成し、顕現する。
アレは。 あの形は……槍、だろうか?
そうだ、アレは間違いなく槍と呼ぶべき形をしている。
「じゃあね、イッセー君」
耳に届いた彼女の声。 聞こえた言葉。 別れの言葉。
同時に聞こえた音。 ひゅう、と。 何かが風を切り裂く音。
直後に、鈍い音と共に衝撃が腹部を襲った。
腹を見る。 気が付けば、彼女が手に持っていた光の槍が俺の腹を貫いていた。
何故、君が。 どうして、俺が。 疑問に対する答えはない。
ふっと、光の槍が散って消える。 残されたのは大きな傷痕。
ぽっかりと大穴を穿たれた俺の腹。 血が噴出し、身体の熱が失われていく。
気が付けば、俺は足元から崩れ落ちるように、地面の上に倒れ込んでいた。
「ゴメンね。 あなたが私達にとって危険因子だったから、早めに始末させてもらったわ。
恨むなら、その身に宿した神器か、或いは神でも恨んでちょうだいね」
危険因子。 神器。 なんだ、それは。
わけがわからない。 彼女は何を言っているんだ。
聞きたい。 何故、俺がこのような目にあうのか。
聞きたい。 彼女は。 夕麻ちゃんはいったい何者なのか。
聞きたい。 けれど、喉から零れたのはひゅうひゅうと掠れた呼吸の音ばかりで。
彼女は俺を一瞥すると、倒れた俺に背を向けて歩き出した。
音が響く。 静かな公園に立ち去る彼女の靴音だけが。
待て。 待ってくれ。 俺は右手を伸ばし、視線のみで彼女を追いかける。
しかし、伸ばした右手は届かずに。 彼女の背中はやがて夕闇の向こうへと消え去った。
……ああ、行ってしまった。 まだ、何も聞いていないというのに。
俺。 このまま、死ぬのかな。
まだ、童貞も。 いや、高校も卒業していないというのに。
薄れる意識。 浮かんでは消える記憶。 記憶。 記憶。
親父。 お袋。 松田。 元浜。 担任の教師。 クラスメイトの皆。
くだらない事。 些細な事。 人には言えない秘密の事。
嫌。 嫌だ。 死にたくない。 俺は、まだ死にたくない。
俺は脳裏を巡る記憶を振り切り、指先に力を込める。
ピクリと力を込めた指先が動いた。 まだ。 まだ、動く。 動ける。
震える指先を腹の傷跡に導き、確かめるようにそっと触れる。
冷え切った手のひらが血で汚れた
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