第二部まつりごとの季節
第三十六話 庭宴は最後の刹那まで(上)
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「という事は、大佐殿は兵務局の対外政策課長殿ですか。見事な栄転ですね」
――成程、安東吉光・・・・・・兵部大臣派って事か。
安東家の方針を巡る対立構造を探る事も必要か、と豊久は銃後に残る父達に同情しながら頷いて見せる。
「一歩遅かったら東州鎮台の聯隊長だった。私は運が良かったよ」
「私と違って」
と豊久が口元を歪めて云うと
「相変わらず言い辛い事をあっさりといってくれるな」と三崎も同様に笑った。
「ま、それで色々と君の義弟君と仕事の話をしていたところなのさ」
そう云うと、若い外務官僚も同じく、と頷いた。
「はい、そういうことで色々と教わっていました」
「あまり悪い遊びを教えないでやってくださいよ?」
「君みたいに?」
「私みたいに」
そう云って軍人二人がHAHAHAHAと声を上げて笑っているのを見て外務官僚も苦笑いして肩を竦めた。
「――どの道、悪い遊びを覚えさせられそうですね」
「今から面の皮と胃壁を厚くしておくべきだな――と、そろそろ失礼します、大佐殿」
後ろから茜が軽く背を叩いたのに気づいた豊久が三崎に敬礼をして彼らの卓から離れた。
「それで、どうしたんですか?」
「御父様達がお呼びみたいですよ」
弓月伯と豊長がこちらに視線を向けているのに気づいた。それに、名前を思い出せないのだがどうにも記憶に引っかかる男が共にいる。
「――また面倒なことになりそうだなぁ」
「・・・・・・大丈夫ですよ、きっと」
肩を落とした豊久に茜も力なく笑いかけた。
「しかし、こうして執政代殿がいらっしゃって下さるとは、嬉しい限りですな」
「いやいや、豊長殿。こうした一朝有事の際にこうして友誼を深める事は大事な事だ、私も労を惜しむことはしません」
――あかん。
にこやかに二人と談笑していた男を観て豊久は思わず後退りしそうになる脚を意志の力で押さえつけながら呻いた。
舞潟章一郎――衆民院がかつて官選機関であった頃からの最古参議員であり、現在は第一党である皇民本党総裁にして、執政府次席である執政代の地位に衆民から初めて選出された大物政治家である。
太平の時代においては民政優先反軍縮小を掲げ、安東家と組んで東州への官民両方の大規模投資の旗振り役を務めたかと思えば駒州を要とする大規模な街道整備に関して内地の土建屋や五将家と組んで水軍・廻船問屋連と予算を奪い合ったりと目敏い機会主義者として有名であった。
「――ふむ、ちょうど話題になっていた者が来てくれたようですな」
弓月伯爵は近寄ってきた義理の息子予定者と娘を手招きしながらそう云った。
「ほう、君が馬堂豊久中佐かな?それにそちらが弓月伯の御息女か」
「舞潟執政代閣下。お久しぶりです、御目にかかれて光栄です」
「父からよくお話を伺っています、執政代閣
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