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ドン=カルロ
第五幕その三
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第五幕その三

「この身が朽ちようが私は諦めない!」
「まだ諦めぬか」
 大審問官は舌打ちした。
「殺してしまえ!」
 カルロを指差して言った。だがカルロは彼等を投げ飛ばし抵抗を続ける。
「これも公爵への想いか」
 王はそれを見て言った。カルロを支えているものの強さをその時知った。
 だがカルロも限界にきていた。やがてメイスが掠った。
「ウッ・・・・・・」
 彼の頬を血が伝う。その時だった。
「待つがいい」
 カルロの後ろの聖堂の中の鉄格子が開いた。
「何」
 その声にまず反応したのは王と大審問官であった。
「鉄格子が開いた・・・・・・!?」
 一同は動きを止めた。中から再び声が聞こえてきた。
「それまでだ」
 そして鉄格子の中から誰かが姿を現わした。
「なっ!」
 それを見た王の顔が蒼白となった。
「まさか・・・・・・」
 そこにいるのは王と瓜二つの顔を持つ男であった。面長で黒い瞳は丸い。鷲鼻を持ち厚い唇の下は突き出ている。髪は黒くその上に金の王冠を被っている。黄金色の甲冑と白いマントに身を包んだその者を知らぬ者はこのスペインにはいなかった。
「父上・・・・・・」
 彼が父と呼ぶその男、彼こそカール五世であったのだ。
「まさか本当にここにおられるとは・・・・・・」
 エリザベッタも異端審問の者達も驚愕した。カルロはその前に立っていた。
「カルロ、我が孫よ」
 彼はカルロに近付いて言った。
「そなたの幸福、そして王国はこの世にはない」
 彼は厳かな声でそう言った。
「そなたがいるべき場所はここではない。私がそなたが本来いるべき場所に誘おう」
 そう言うとカルロの身体をその白いマントで包みにかかった。
「来るか」
「はい・・・・・・」
 カルロはそれに対し頷いた。
「ならば来るが良い。そなたが愛する者もそこにいる」
「ロドリーゴ・・・・・・」
「そうだ」
 それが彼の最後の言葉であった。彼の身体は祖父のマントに覆われた。
「では行こう。神のおわすあの世界に」
 カール五世は静かに言った。そしってそのままゆっくりと後ろに下がる。
「これは一体どうしたことじゃ・・・・・・」
 大審問官は驚きの声で呻いた。
「皇帝陛下がこの世に現われるなどと」
「奇跡なのか・・・・・・」
 王は呻いた。その間に王は聖堂の自らの墓所の中に消えていた。
「さらばだ」
 それが最後の言葉だった。王の気配が消えた。
「父上はカルロを・・・・・・」
 王は呟いた。その時鉄格子が閉じられた。
 鉄の音がした。そして全てはその中に消えた。
「・・・・・・・・・」
 王は沈黙した。だがゆっくりと口を開いた。
「これが神の、そして父上のご意志だ」
「先王の・・・・・・」
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