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ドン=カルロ
第五幕その二
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手の届かぬところで思う存分その力を養わせ使わせてやったものを)
 彼は後悔した。そして唇を噛んだ。
(わしのように王冠を被りながらもそれに支配されるのではなくその王冠でもって全てを乗り越えられたのに。その者をわしは今消してしまおうとしている)
 カルロの剣が鈍ってきた。もう何人斬り伏せたことだろうか。異端審問の者達は彼を取り囲んだ。
「さあ、もう逃げられんぞ」
 大審問官はほくそ笑んだ。彼は耳で全てを感じていた。
「潔く裁きを受けるがいい」
「クッ・・・・・・」
 肩で息をしている。もう限界であった。剣も血糊で真っ赤となっている。
「カルロ・・・・・・」
 王もエリザベッタも顔を向けた。見ないではおれなくなった。
「まだだ」
 彼は言った。
「まだ私は倒れるわけにはいかない。ロドリーゴの為にも」
 そして剣を振るう。しかしその動きはもう今までの冴がなかった。
「無駄だ、諦めよ」
 大審問官はその剣の音を聞いて言った。
「全ては裁かれる時が来たのだ」
「まだだ、フランドルへ行くまでは・・・・・・」
 剣で切れなくなると今度はそれで殴った。あくまで戦うつもりだ。
「させんっ!」
 剣で一人を叩いた。だがそれも遂に折れた。
 剣の折れた半分が中空を舞った。そしてそれは回転し床に落ちた。乾いた音を立てて転がる。
「折れたか・・・・・・」
 カルロはそれを見て呟いた。
「これで終いだ」
 王は言った。エリザベッタの顔が蒼白になる。
「さあ、今までよく手こずらせてくれた」
 大審問官はその音が収まったのを聞いて再び口を開いた。
「今こそ裁きを受けるがいい」
 カルロを囲む輪が狭まった。
「まだだ!」
 しかしカルロは諦めない。その両腕を振るう。

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