終章(エピローグ)
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――――途方にくれるしかなかった
あの人が残していった、薄汚れたペンダントを握り締めたまま。
あの事件からひと月が過ぎ、マスコミも周囲もだいぶ落ち着いた頃、紺野さんと近所の川原で待ち合わせていた。
病院の件は、謎のシステム暴走が生み出した稀代の猟奇事件としてマスコミを賑わせた。当然、制御室で倒れていた『生存者』の僕にも、マスコミの取材は押し寄せたものだ。僕は『覚えてない』『怖かった』を連発してしのいだ。コメントのつまらなさと、従姉妹の見舞いに来て偶然奇禍に見舞われたという分かりやすい事情のおかげで、僕からマスコミの足が遠のくのは早かったっけ…
「よぉ」
紺野さんが、枯れ草を踏みながら現れた。…しばらく会わないうちに、誰かと思うほど面やつれして見える。…夕日のせいかと思ったけど、あきらかに頬がこけていた。
「久しぶり。…大変、だったね」
慎重に言葉を選んで、ぎこちなく笑顔を向ける。
烏崎の置き土産は、思っていた以上に厄介だったらしい。武内の殺害現場に落ちていた紺野さんのライターが、以前に盗まれたものだということは、結局立証できなかった。マンションの防犯カメラと僕らの証言で、紺野さんは仮釈放されたのだ。だから武内殺しの犯人という風説は簡単には消えず、出社しても針の筵だ…と、結構深刻な愚痴を聞かされた。
「あぁ…ようやく、犯人=烏崎説で動き始めてくれたみたいだけどな」
烏崎は際立って猟奇な状態で発見されたため、『一体何があったのか』の究明が優先されてしまい、武内殺しとの関連を探ることは後回しにされたようだ。
「それより…こんなこと聞くのもなんだが、柚木ちゃんは元気か」
「あぁ…」
力なく、薄笑いを浮かべて応じた。
「だいぶ、落ち着いてきた。…しばらく、病院には近寄りたくないってさ」
あの惨劇のあと、遠くない柚木の死を突きつけられて、僕は果てしなく落ち込んでいた。ある事実を聞くまでは。
<i629|11255>
柚木も紺野さんも、被爆してはいなかったのだ。
閉じ込められた二人が、レントゲン写真を大量に連写された…と思い込んでいた。でも実際に撮られたレントゲンは最初の10枚程度で、あとは同じ写真のトリミングを微妙に変えて、繰り返し表示されていたらしい。
『あれだけは、ビアンキの仕業じゃなかったんだよ。…あいつだ』
そう言って紺野さんは苦笑いを浮かべ、流迦ちゃんのいる病棟をあごでしゃくった。何のためにそんなことをしたのかは、笑って答えてくれなかった。
『いつから、気がついてたの』
『閉じ込められた直後だ。…不自然な点がいくつかあっただろ』
一つめは、レントゲン室に現れた流迦ちゃんの投射映像。あの仕掛けは、侵入者が流迦ちゃんと親しい人間であることを把握していなければ思いつかない。
二つ目は、紺野さん達
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