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くらいくらい電子の森に・・・
終章(エピローグ)
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が自慢げに見せに来たのではなく、スポンサーの紺野さんを仲介するためについてきた僕が、行きがかり上見ちゃっただけなんだけど。
『…俺達は、卒業してもランドナーの呪いからは逃れられないんだよ…』
そんな不吉な予言を残して、鬼塚先輩は新しい自転車にまたがって帰っていった。
『せっかく意中の自転車を手に入れたというのに、陰気な男だな』
先輩の後姿を見送りながら、紺野さんが1人ごちたものだ。その時は、僕もそう思っていた。でも、最近になって鬼塚先輩の気持ちが、何となく分かり始めている。

「…で、いつ出発するの?日本一周。鬼塚先輩、気にしてたよ」
「ぐ……」
いつしか、柚木が傘をたたんでいる。霧雨が止んだようだ。
「――中間試験が終わったら、すぐ…かな」
「だよね。8月とかになると却ってきついって、言ってたもん。頑張れ、ランドナー」
そう言って柚木は、ランドナーのサドルにポンと手を置いた。こんなホームレス仕様な自転車を引いている僕の横を、柚木はいつも一緒に歩く。すれ違う人が奇異なまなざしを送っても、ランドナー越しに僕に寄り添う。
「日取りが決まったら、皆で壮行会やるからね!」
「いいよ…そんな会」
壮行会っていうよりも《自分がランドナーに選ばれなかったことを喜ぶ会》だろうが。そうでなくても最近、サークルの飲みとかで、皆がおしゃれな街乗り自転車を並べる中、このおんぼろランドナーを差し込むのが辛いというのに。
「壮行会はいいからさ、その…そろそろ、少しオープンにしないか」
「何を?」
「その…付き合ってる…って」
「大丈夫、浮気しないで待ってるから」
「いやそういうことじゃなく…」
――最近、僕のサークルでの立ち位置が『可哀想なひと』になっていることに気がついているのか。せめて『彼女が可愛い』とかそういうスペリオリティを披露したいわけで…
「あ、陽が出てきたよ!」
水溜りを軽やかに飛び越えて、柚木が走り出した。その先には、初めて二人乗りした坂道。あの時は死ぬんじゃないかと思った…。
坂道を見下ろすと、そこかしこの水溜りに映りこむ、少しくすんだ青空。
ビアンキの瞳の色に、よく似ている。…なんか、声が聞こえたような気がした。

『柚木に、なりたかったな…』

僕はふと、奇妙な想像に駆られる。
病院の空調は、柚木がいたレントゲン室とつながってはいなかっただろうか?
柚木になりたかったビアンキのカケラが、偶然柚木に行き着くようなことは、ありえないだろうか。ダクトを通って、蒸気にまぎれて。
僕は、密かに声に出してみた。

「ビ ア ン キ」

坂道を降りたあたりで、柚木が振り向いた。
一面に広がる水溜りは、ビアンキの瞳と同じ色。
そして、振り向いて僕を見上げる柚木の瞳は、
春の空が映り込んだ、透明なチェレステ
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