終章(エピローグ)
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を旨そうに頬張る僕。
『偉いぞ、ビアンキ』と小さく呟いて、マウスでビアンキを撫でる僕。
柚木の無茶な要求に、苦笑いを浮かべる僕。
「馬鹿だな…自分の画像も残しておけばいいのに…」
じわりと液晶が曇った。
――ビアンキ。短い間だったけど、幸せだったか?
僕は、いいご主人さまだったのかな。
答えてくれよ、ビアンキ。
手元が、昏くなってきた。
少しだけ姿を見せていた夕日は、燐光を放つ雲の谷間に落ちて
ただ、雲だけがその輪郭を光らせていた。
目を上げると、紺野さんの姿はなかった。
薄暗い…ただひたすら広い、枯れた川原で、
僕は静かに、途方にくれていた。
世間は、新緑の季節を迎えようとしている。
目に突き刺さるような鮮やかな新緑の季節が、もうすぐやってくる。
今はわずかに散り残った桜が、濡れた地面にぽつぽつと薄桃色の点を打っていた。
「姶良、傘、差さないの?」
後ろから傘をさしのべてくる、柚木。
「うん。…霧雨なら、傘は差さない」
こんな日の柔らかい霧雨なら、傘を差す気がしない。柚木は、ふーんと小さく呟いて傘を引っ込めた。
「…いいよ、柚木は差してて」
「うん、そうする」
柚木はあっさり傘を差し直した。…いいんだ。霧雨でクセ毛がさらにクルクルになるのを何より嫌っているのは知っている。
霧雨に柔らかく包まれるたびに、ビアンキを思い出す。
冬になって、首の後ろでぱちっと音がすれば、きっとまた思い出す。
たとえば緩やかで温かい風。沈丁花の香り。草の葉に置かれた朝露。ふとした瞬間に、ビアンキの微かな気配を感じることがある。
電子の塵になったビアンキは、今も僕の周りを漂っているのだろうか。…様々に、姿を変えて。
『ネット上に残ったビアンキの情報を収集すれば、いつかサルベージも可能かもしれない』
と、紺野さんは言ってくれた。
…でも、それが実現しないであろうことは、何となく気がついている。今、柚木が使っている《かぼす2世》みたいに、よく似たMOGMOGを作り出すことは可能かもしれないけれど。
もしサルベージが成功しても、ビアンキはまた苦しむ。ディスプレイの向こう側で、言葉で伝えきれない気持ちを抱えて。だから、このままでいい。ビアンキは物言わぬ電子に還って、僕の周りで生きているのだから。
「久しぶりに、鬼塚先輩が来てたよ」
柚木の声が、僕を現実に引き戻した。
「あぁ…元気だった?」
「あの人の元気って想像つかないなぁ」
そう言って柚木がくすくす笑った。
「折角、呪いのランドナーから開放されたのに、また変なランドナーに乗ってるの」
「変なっていうなよ…可哀想だから…」
鬼塚先輩のランドナーっぽい自転車は、柚木よりも一足先に見せてもらっていた。…といっても、鬼塚先輩
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