終章(エピローグ)
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まくってるよ。…俺には、何もできん」
そう言って、内ポケットからシガーケースを引っ張り出して煙草を咥えた。
「あー、これはガボールの…あれだ」
「また新しいの買ったの」
「金が入って仕方ねぇんだよ」
事件の後、紺野さんを始めとする開発室を生贄にしようとしていた一派は恐慌を来たしたらしい。計画は本人たちにバレた上に首謀者が死に、会議の証拠は紺野さんに押さえられ、修正プログラムはとっとと配信されてしまったわけだ。処分を恐れた希望退職者が殺到したと聞いている。そして紺野さんを始めとする開発室の面々には、引止め料や口止め料を兼ねた『臨時ボーナス』が支給されることになった。
「それはいいんだけどな…困ったことに、開発室の連中が、山から降りてこなくなった。元々引き篭もり気質な連中だし、今回のことで人間不信になっちまって」
「ふーん…紺野さんはどうするの。残るの」
「んー、考え中」
ふー…と細く煙を吐いて、また対岸を眺める。
「…伊佐木がいなくなってさ、分かったこともあるんだ。あのおっさん、確かに優秀な営業なんだよ。あの男があんな手段にでるなんて、本当に非常事態だったんだな…」
「みんな、それぞれの道理のもとに動くんだ。…誰かの道理を踏みにじっても」
「……そうだな」
紺野さんは短く同意してくれた。そして吸殻を何かかっこよさげな携帯灰皿に押し付けると、仕舞い込むついでのように、I-podによく似たペンダントを懐から引きずり出した。
「これ、渡しておく」
「………?」
「ハルが、偶然拾った。…ビアンキがアンインストール前に放出した、ビアンキの記憶…みたいなものだ」
「ビアンキの…?」
紺野さんの携帯が煙を吹いたとき、ハルも一緒に消されたと思っていた。でも実際は、ハルは攻撃を逃れ、病院のネットワーク内に潜伏していたらしい。その後紺野さんに回収されて、今も元気に紺野さんのパソコンを守っている。
今となっては、ハルとビアンキがどんな関係だったのかは分からない。ただ、復帰したハルはあの事件以来、時折情報処理速度が遅くなる…と紺野さんが言っていた。最初はウイルスの影響を疑ったけれど、どうもそういうわけではないらしい。
『ビアンキの情報を、整理していました』
処理が止まるたびに、そう呟くそうだ。狂ったビアンキと接触したから、ビアンキからの情報を警戒しているのか、それとも…ビアンキの消失を、悲しんでくれているんだろうか。
考え込んでいる僕の掌に、ペンダントが落ちた。
「ほとんど、画像と映像だ。…ここを押すと、ランダムに再生される」
再生ボタンを押すと、小さな液晶画面が青白く光り…やがて、映し出された。
それは、笑った。
――目眩がするくらい、幸せそうな微笑を浮かべて。
それは全部、笑う僕の映像だった。
オムライス
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