暁 〜小説投稿サイト〜
くらいくらい電子の森に・・・
終章(エピローグ)
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がレントゲン室に飛び込んだ直後に閉まった扉。紺野さんは、こう言っていたじゃないか。『ビアンキは、俺達の正確な位置を把握するまでに、少しだけどタイムラグが生じる』と。あんなにタイミングよく扉が閉まるからには、罠を仕掛けた相手は、リアルタイムで僕らの位置を把握していたことになる。…となると、一番可能性が高いのは、院内の至るところにライブカメラを設置していた流迦ちゃんだ。
何で気がついた時点で教えてくれなかったのかと詰め寄ると、紺野さんはニヤニヤしながら僕と柚木を交互に見回した。
『…あそこで教えちゃったらシラけるだろ』
――迂闊だった。…まずは命汚い紺野さんの、異様な諦めの早さを疑うべきだった。

…思い出したら、ムカムカしてきた。
「…紺野さんにも、しばらく会いたくないってさ」
「まだ根に持ってるのかー…悲しいなぁー。そんな所も愛してるって伝えておいてくれ」
「…まだ諦めてないのかよ」
「安心しろ。本格的にコナをかけるのは、お前と別れた後だ」
「生々しいこと言うのやめてよ…」
久しぶりに他愛のない会話を交わした。元通りの紺野さんに見えた。…そう見えるように振舞っているのが、透けて見えた。ふと、何かを思い出したような目をして対岸を眺める。そんな仕草の端々にも滲んでいる。…この人は自分で思っているよりも、忘れるのが下手な人だ。だから、紺野さんが抱え込んでしまったものを垣間見ると、聞きたいことも聞けなくなってしまう。次に会ったら、絶対に聞こうと思っていたのに。
「――ごめんな」
ふいに、謝られた。
「………」
「結局無関係のお前に、嫌な役を押し付けることになった…みたいだな」
「…八幡、さんから」
聞いたのか?と続ける前に、紺野さんが頷いた。
「もう出社してるの、八幡さん」
「いや、まだ休職中。…葬儀でな、会ったんだ」
「…そう」
壁の向こうで凍死した伊佐木の葬儀は、ニュースで知った。無表情な奥さんと、空ろな子供達が遺影を抱えて粛々と車に乗り込む場面が一瞬映されたのを覚えている。あの奥さんは子供達に、どう語り伝えるんだろう。『お父さんは、そつのない立派な人だったから、お父さんのような大人になりなさい』と?
所詮、他人事だ。…だから切なかった。伊佐木は自分の子供達に、こう伝えたかっただろうに。

――私のような、大人には、なるな。

伊佐木が一番伝えたかったことは、この子達には永久に届かない。僕は他人だから。

「…どうなるのかな、八幡さん」
「自首は思い留まらせた。元々巻き込まれただけなのに、主犯が全員死んでいるって状況はまずいだろうからな。それに」
くくっと喉で笑って、首を落とした。
「あの性格じゃ、ムショで虐められまくって大変だろうし」
「あー…目に浮かぶようだよ」
「思った通り、伊佐木を引きずり
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