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くらいくらい電子の森に・・・
第二十一章
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日でも経ってたら、写メくらい撮ってたのに。

「――ご主人さま、逃げて!!」

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正面の端末から聞き覚えのある声がした。僕は反射的に立ち上がると、端末の傍に駆け寄った。次の瞬間、僕が座り込んでいた辺りに、大量の熱い蒸気が降り注いだ。
「……ビアンキ!」
「よかった……間に合った……!」
一瞬にして蒸し風呂のようになった室内で、端末の画面が立ち上がった。
「……ご主人さま!!」
薄黄色に濁った液晶画面に、泣きそうに歪んだビアンキが居た。
「…そこにいるんだな、ビアンキ!!」
一息に叫んだ直後、頭がくらくらして座り込んでしまった。急激に湿度が増した室内は、暖めすぎたサウナみたいになっていた。…湿度が高すぎて、息が吸えない。
「この蒸気…止められないのか」
「今、冷たい風を送ります、から…」
ビアンキはしゃくりあげながらも、懸命に何かを操作している。それを阻むように、ビアンキの体のあちこちが膨らんだり、消えてなくなったりした。
「…これで大丈夫…でも、少し時間がかかります…ごめんなさい…」
そう言って、無理に笑ってみせた。
蒸気のせいかもしれないけど、目の前が霞んだ。…もう、会えないと思っていたのに。思わず、画面に手を伸ばしていた。
「ビアンキ、なんだね」
ビアンキは、いつも通りの笑顔を浮かべた。その笑顔にまとわりつくようにして蠢く、黒い澱。…こいつが、ビアンキを凶行に走らせた、もう一体のMOGMOG…なんだろうか。黒い澱は、液晶を縦横無尽に蝕み続ける。ビアンキの笑顔を穢しながら。
「…辛かったよな、ごめんね、ビアンキ」
言いたいことも、聞きたいことも山ほどあった。問題も多分、何一つ解決していない…でも、今はそれだけ伝えたかった。…言葉で伝わる気持ちは、全部伝えてあげたかった。ビアンキは瞬きもせず、ただ僕を見つめていた。…見えるはずのない僕を、じっと見つめていた。
「寂しい思い、させたよね。もう大丈夫だよ。…僕は、ここにいるから。何も気がつかなくてごめんな。ビアンキのこと、大好きだよ。戻ろう。戻って一緒に、おやつ巡りをしよう。…作ってくれたオムライスの画像、壁紙にするよ。ビアンキ…」
堰を切ったように、沢山の言葉を綴った。思いつく限りの気持ちを、全部言葉にした。

――あの一言を、少しでも先送りにしたくて。

黒い澱に蝕まれながら、ビアンキは僕を見つめていた。…やがて、静かに微笑んだ。
「私、頭が良くない…ですから、リンネをこれ以上、抑えられない…かも、です。だから」

「最期の命令を下さい、ご主人さま」

――分かっていた。

ビアンキは、もう僕のノートパソコンには戻れない。
戻れたとしても、ビアンキは発狂の宿命からは逃れられないだろう。
だから最期の命令は…僕
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