第二十一章
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っとした癖も、沢山見てきた。今も…僕のために泣いているのを感じるんだ。…伝えられないのかな、僕がここに生きているって」
ハルは、何も言わなかった。…当然だ。認証の代わりに思い出でアクセスできないのかな、などと問われて困らないプログラムが何処にある?そこは、人間とプログラムを隔てる、どうしても超えられない一線なんだ。
「…思い出を、電気信号にして伝えられたらなぁ…」
ぼやいても、ぼやき足りない。頭の中には、ビアンキとの思い出が沢山詰まっているのに…オムライスの画像や大音響の『焼肉食べ放題』で酷い目に遭ったこと、花柄のワンピースが可愛かったこと、瞳の色だけは、僕がカスタマイズしたこと…何一つ、ビアンキに伝えてやることはできない。
「瞳の色…か」
憧れていた自転車のボディカラーに似せた、ビアンキだけの瞳の色。
色のコードは、76ccb3。
76ccb3…
―――これは。
「…ハル!」
「はい」
「76ccb3は…MOGMOGをインストールした時のパスワードは!?」
ハルの目が、すっと細まった。
「もう少し早いタイミングなら可能性はありましたが…今のビアンキは、病院内のシステムをすべて2進数で支配しています。つまり」
「………」
「ビアンキ自身が必要を感じない限り、2進数、つまり0と1の数字以外は受けつけないでしょう」
「……そう」
最後の希望が、あっけなく砕かれた。…なら、ハルがビアンキに呑みこまれるのを待つだけの接触に、意味なんてない。
――僕は、ビアンキへの接触を諦める。
「――76ccb3…ってさ、ビアンキの瞳の色なんだ」
誰に言うでもなく、呟いた。深い群青の液晶画面の中でハルが、瞬きもせずに聞いていた。
「カラーコード。…瞳の色だけ、僕がカスタマイズしたんだよ」
「――カラーコード」
ハルが小さな声で復唱する。…なんとなく笑いが浮かんだ。今はただ、話しかけたら言葉を返してくれる誰かが傍らにいてくれる、それだけのことで気持ちが安らいだ。
「それは、16進数ということですか」
「…16進数…って、あの?」
高校の時、パソコンの授業で2進数の説明ついでに聞いたことがある。0から9までを一桁とみなす10進数に対し、9以降にアルファベットのAからFを加えた16個の数字を用いて数を表現する方法を、たしか16進数とか言うんだっけ。
「――そうかもね。カラーコードでは『白』って、『FFFFFF』だし……あ」
「2進数に変換すると、11101101100110010110011、です」
彼女は微塵も表情を変えずに、淡々と言葉を綴る。…液晶画面の背景が明るい色に変わったような気がした。
「可能性は、ほんの少し上方修正できます。…確率を、数値でお知らせしますか」
「ん…いいや。要らない」
分かってる。それで
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