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くらいくらい電子の森に・・・
第二十一章
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ます」
「…え」
「分かるんです私。…無理、してる人」
じわり、と目尻に涙の玉が浮かんだ。
「手に負えないなら、頼って欲しいのに。…無理する人って、それが出来ないんだから」
そう言って、僕の肩に額をあてて泣いた。…彼女が肩の向こうに誰を見ているのか、痛いほど分かった。
そして、伊佐木が最後の最後まで言えなかった本音が、その向こうに透けて見えた。
だから、僕は…。
「きゃっ」

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八幡の短い悲鳴が上がった。
僕は、八幡の細い肩を思い切り突き飛ばし、ドアの向こう側に滑り込んで施錠した。
「姶良さん!どうして!?」
防音加工されたドア越しに、八幡の引きつったような声が聞こえた。
「たぶんこの先は、2人で行っても意味がないんだ。…だったら、外部の助けが到着するまででいいです。伊佐木さんの近くに戻ってやってくれませんか」
――それがきっと、伊佐木が誰にも言えなかった本音。
死の間際の告白は、懺悔がしたかったわけでも、自分の人生に言い訳がしたかったわけでもない。…と思う。そういう人間じゃない。
寂しかったんだ。
命が尽きる瞬間、誰かに傍にいて欲しかった。それはもちろん、僕じゃなくて…。
だけどその相手には、最期の言葉を残さなかった。…僕には、その理由も分かる気がする。でも、だってを繰り返しながらドアを叩き続ける八幡に、もう一言だけ伝えることにした。
「…幸せに、なってください」
――これがきっと、伊佐木の本当の遺志。
伊佐木の遺志なんて律儀に継いでやるつもりはない。ただ…そう。『僕の意思と実によく合致』したから、僕の言葉として伝えてやった。…どうせあんたは、最期に優しい言葉を残すつもりなんてないんだろう。八幡があんたの死に引っ張られず、幸せになれるように。
僕はドアを離れ、制御室の中央に向かってゆっくり歩き出した。
「この部屋に入った奴は、確実に死ぬ。…そうだろ、ビアンキ」
不気味なほど、室内は静まり返っていた。



「…やっぱり、端末は使えないか」
起動しないパソコンを前に、呟いてみた。
予想できていたことだ。ビアンキが流迦ちゃんと同じ思考回路を持っているのなら、僕らの目的に気がつかないわけがない。制御室に近づけたくないだけなら、こんなまどろっこしい事をしなくても、別の方法があったはずだ。
例えば、制御室に一番近い防火シャッターを下ろしてしまうとか。
それでも、ビアンキはあえて制御室まで僕らを誘い込んだ。僕を『殺した』世界全てを憎んでいるビアンキは、自分を止めようとする人間を、最も惨たらしいやりかたで殺してやろうと考えているに違いない。…流迦ちゃんなら、そうする。
――幸せになってくださいなどと大見得を切って八幡を締め出したことを、軽く後悔し始めた。1人で死ぬって状況は
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