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くらいくらい電子の森に・・・
第二十一章
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重苦しい気分で、そのドアの前に立つ。
八幡と僕は、一言も言葉を交わさない。…僕が伊佐木を許せないのと同じで、八幡もきっと、僕を許せないんだろう。
死んで初めて、可哀想な男だと知った。でも、それとこれとは別だ。許せない。
許してしまったら怒りのやり場がなくなって、自分の中で破裂してしまう。…それはきっと、八幡も同じなんだ。こんな時に――唯一、僕の隣で生き残った彼女が、僕を見てもくれない。…心底、寒さがこたえる。
伊佐木の呼吸が途絶えた時の、八幡の行動は意外だった。
八幡は顔をくしゃくしゃにしたまま、僕の手を引いて走り出した。
「…もう、時間がありません」
それだけ呟いた。…これが、八幡の道理。『伊佐木の遺志を継ぐ』ことが、八幡の最優先事項なんだ。…今も僕を庇うようにドアの前に立ち、そっとノブを引いている。

――ドア、か。

皆、ドアの向こうに消えていった。
烏崎も、伊佐木も、紺野さんも…柚木も。
悲劇は全部、示し合わせたように、ドアの向こう側で起きた。
開かないドアの向こうで、なす術もなく…皆、消えていった。

――このドアの向こうに、最後の悲劇が待っているのかな…。



――悲劇はいつも、向こう側で起きるの。
壁の向こうで大切な人が切り刻まれていくのを、なす術もなく見守るの。
だから少し、涙がでそうになった。

――監視カメラに映し出された男の子。
大好きな女の子を、ドアの向こうに見失った。ドアを叩いて、血が出るまで叩いて、泣き叫ぶ男の子。…そして、女の人。大切な人がシャッターの向こうで死んでいく気配を、ただ感じることしかできない。

――この箱の中で、私とご主人さまの悲劇が繰り返される。
隔てられた恋人同士。なす術もなく、抗えず、大切な人が殺される情景を眺める残酷な時間。

――でも、おかしいな。
あれは、私がやったことじゃない。…あれだけは、私じゃない。
なんか気持ち悪い。この箱の中に、誰かがいる。私の監視をかいくぐって、自由に動き回っている、誰か。スピーカーを使えなくしたり、どうでもいいようなドアを勝手に開けたり閉めたり、そんな小さな悪戯を繰り返してる。
気配だけ感じる、私によく似た『誰か』。

――捕まえようと思ったけど、やめた。
だって私の準備は、もう済んでいるんだもの。
このひとたちが、なんで『制御室』に向かっているのか、私知ってるの。私を、止めるためでしょ。
でも無理。だって、

――この部屋の端末、もう操作できないもの。

――馬鹿なひとたち。
もし端末が使えても、私に干渉できると思ったの?
唯一私に命令できるご主人さまは、もう…いないのに…
馬鹿なひとたち。大切な人の屍に付き添っていてあげればいいのに。馬鹿なひとたち。
後悔するよ?…大切なひとか
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