第百二十一話 四人の想いその七
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「茶も好きじゃ」
「そういうことだね。じゃあ真田の旦那と直江の旦那は」
「うむ、わしもだ」
「それでいい」
二人も異存はなかった、それでいいというのだ。
「では前田殿、お願い申す」
「それでな」
「わかった。では僭越ながらな」
こう前置きしてだった、そして。
慶次が茶を煎れる、それからだった。
四人で茶を飲む、まずは兼続が言う。
「これはかなり」
「よいか?」
「うむ、美味い」
茶のその味を楽しみながらの言葉だ。
「よい茶の煎れ方じゃ」
「だといいがな」
「茶には人が出る」
飲みながらこうも言う。
「御主の人がな」
「ははは、褒めてくれるか」
「褒めてはおらぬ」
そうではないというのだ。
「事実を言っておるだけじゃ」
「そうか」
「御主は傾いておるな」
「それがわしの生きる道じゃ」
そしてそれは何かというと。
「ふべん者の道じゃ」
「不便者か」
「そうじゃ、大不便者じゃ」
笑いながらの言葉だった。
「わしは傾くだけで何にもならなぬ、まさに大不便者よ」
「不便者がこれだけの茶を煎れるか」
「ではわしは不便者ではないというのか」
「違うな」
兼続は慶次の茶を飲みながら彼自身に言う。
「断じてな」
「ではわしは何じゃ」
「傾奇者じゃ」
それに他ならないというのだ。
「御主はな」
「傾いておるだけか」
「その道を歩いておるな」
「だから褒めても何も出ぬぞ」
「元より何かを出そうとも思ってはおらぬ」
兼続は冷静に返す。
「おぬしを見たいだけじゃ」
「わしをか」
「そうじゃ、御主をじゃ」
それだけだというのだ。
「前田慶次という者をな」
「それを茶から知ったか」
「うむ」
まさにそうだというのだ。
「それが出来たわ」
「茶には人が出ると言うがのう」
「まさにその通りじゃな」
「そしてわしは不便者ではないか」
「傾奇者よ」
まさにそれだというのだ。
「御主はな」
「左様か。では傾奇者の茶はどうした味じゃ」
「型にはまっておらぬな」
実際の茶の味の話になる、そのうえでの言葉だった。
「しかし筋は通っておる」
「茶の筋がか」
「うむ、しかとな」
通っているというのだ。
「そしてよく見れば煎れ方も作法通りじゃ」
「まあそうせぬとよき茶にはならぬからな」
「そうじゃな。人もじゃ」
「そうなるか」
「うむ、御主は人としての道が出来ておる」
そして傾奇者の彼の顔も見て言う。
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