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ドン=カルロ
第四幕その五
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・・・・・」
 エリザベッタはそれを聞き哀しい声で答えた。
 欧州の宮廷ではよくあったことである。正妻がいながら寵妃を愛する。彼女の父アンリ二世はその最たるものであった。
「よくある話です」
 彼女は現実を受け止めた。
「ですが」
 しかしその顔は白いままである。
「私は貴女が陛下と共にいることを認めることは出来ません」
「はい・・・・・・」
 彼女はその言葉を受け入れた。
「さようなら」
 彼女はそう言うとその場を去った。あとには公女一人だけが残された。
「ああ・・・・・・」
 彼女は一人になるとその場に崩れ落ちた。
「何もかもが終わってしまった・・・・・・」
 彼女は王妃を愛していた。それは偽らざる真心からのものであった。
「全ては私の憎しみのせい・・・・・・」
 そして自らの激しい心を呪った。
「それもこれも私の高慢故、そのもとはこの美貌・・・・・・」
 悔やんでも悔やみきれなかった。激しい怒りと後悔が彼女の心を打ちすえた。
「その為に私は今全てを失った、そしてこの罪は決して消えはしない」
 涙が流れた。赤い。血の涙であった。
「この赤い血も全てはこの美貌の為、これ程までにこの美貌を憎んだことがあろうか」
 それは彼女の誇りであった。しかし今は憎しみの根源であった。
「もう私には何もない。何処かの修道院に入り静かに暮らすしかない。この罪を悔やみながら」
 だが彼女はここで気付いた。
「いえ、まだ私には残っていたものがあるわ」
 そして彼のことが脳裏に浮かんだ。
「殿下を、殿下をお救いしなければ」
 王妃への想いを知られたならば、その末路は容易に想像できた。
「殿下だけはお救いしなければ」
 彼女は立ち上がった。そして涙を拭いた。
「私はまだ全てを失ったわけではない、あの方だけはこの命にかえても!」
 彼女は意を決した。そして王の間から姿を消した。

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