第八章 望郷の小夜曲
プロローグ 新たな夢
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人の心がわからない』だとっ!!?
何という傲慢っ!!
何たる非道ッ!!
何をっ……何を……なにを……していたんだ……私は……
今になってそんな当たり前のことに気づくなど……………。
分かっていなかったのは……私たち……だった……。
木々が……草花が揺れる音とともに、風が二人の身体を優しく撫でた。
風に舞い上がった花びらが視線をふさぎ、ベディヴィエールの視界から一瞬少女の姿を隠す。
「っ……ぁ……」
視界が戻った時、瞼を閉じた少女の顔に浮かぶものが変わっていた。
力みが消えた穏やかな顔は……
穏やかさはそのままに……
優しく……
そして何より……
幸せそうに……
微笑んでいた……。
その余りにも自分の知る王との違いに、湧き上がる悔恨と後悔のまま、ベディヴィエールは叫び声を上げたくなる。しかし、喉元までせり上がってきたそれを無理やり飲み込むと、ベディヴィエールは悲痛に歪みそうになる顔を必死に笑みに変えた。
何とか笑みに変えたそれは、到底笑顔とは言えないものであった。
泣きながら笑う……そんな奇妙な笑みを顔にたたえながら……悲痛に歪みそうになる声を必死に抑え……出来るだけ穏やかな声で……王に……主に……眠る少女に……語りかける。
「……見ているのですか…………アーサー王……」
問いかけに、少女は応えず……。
「―――夢の続きを……」
吹き寄せる風が、ただ少女の髪を揺らす音だけが響いた…………。
木漏れ日が照らす森から、馬が駆ける音が聞こえる。
木々の間を淀みなく進む馬影は、立ち止まることなく森を抜けるため駆けていく。
馬の背にいる手綱の主は、残された自らの使命のため、眠る王をそのままに、前へ前へと進んでいる。
視線は動くことなく前へ……。
やっと王の責務(呪い)から解放された少女に、これ以上頼ることがないようにと、未だ燻ぶる迷いを振り払うように馬を疾駆させるベディヴィエールが、後ろを振り返ることは決してなかった。
だから……ベディヴィエールは気付かなかった。
朝霧が晴れ、木漏れ日が森に眠る少女を照らす中。
大樹の影に、銀色の輝きが生まれたことを……。
その光が消えた時…………。
王という重責から解放され、ただ一人の少女に戻った者の姿が…………。
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