第八章 望郷の小夜曲
プロローグ 新たな夢
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た異議が尻すぼみに消えていく。その死に体の筈の身体でありながら、圧せられる程の力―――王の風格からは、先程までの柔らかく優しい笑みの欠片も見えなかった。
王の命に、騎士が異を唱えることが出来るであろうか。
顔を苦しげに歪め力なく頷いたベディヴィエールは馬に跨ると、王の命を遂行するため駆け出していった。
世界を照らす日が中天に座す頃。
森の奥深くにも陽光が満ちる中、王の命を果たしたベディヴィエールが、主の前に跪き、王の剣の行き先について報告していた。
「王。剣は湖の婦人の手に確かに戻りました」
「そうか。ベディヴィエールよ胸を張るが良い。そなたは王の命を守ったのだ」
「…………」
労をねぎらう王の言葉に対し、ベディヴィエールは何の反応も見せず、ただ黙して王の前にて跪き続けていた。アーサー王は、そんなベディヴィエールの態度について何も言わず、コツンと小さく音を立て頭を寄りかかる巨樹に当てる。そして、頭上を覆う、生い茂る木々の枝葉の間から見える、眩しいまでの蒼い空を見上げた。差し込む光に目がくらんだのか、アーサー王はゆっくりと目を細め始める。
「っ……ぁ……―――ベディヴィ、エール…………」
「あっ……は、はいっ」
閉じ始めた瞼は、止まることなく最後まで下がり、とうとう王の眼を隠してしまった。瞼が閉じきる直前、アーサー王は吹き寄せる風に紛れて消えてしまうよな微かな声で、ベディヴィエールの名を呼んだ。王のねぎらいの声には何の反応を見せなかったベディヴィエールだったが、この余りにも小さな呼びかけには、敏感なまでの反応を示した。
「こん、どのねむりは………すこし………ながく………」
音を立て顔を上げたベディヴィエールに話し掛けるアーサー王の声は、尻すぼみに消えていき、最後まで語られることはなかった。
瞼が閉じきり、森の中を翔ける風が、アーサー王の泥と血で汚れながらも、未だ輝きを失わない金の髪を揺らす。
先程まで見せていた王の顔は柔らかく溶け。今は穏やかな顔を見せていた。
その未だ幼さを感じさせる顔は、神聖なまでの無垢さを感じさせる。どんな人物であれ、そこから王と言う言葉は欠片も見いだすことなど出来はしないだろう。
王の……いや、その小さな少女の眠りを起こさないように、草を踏む音さえ立てずベディヴィエールが立ち上がる。見下ろす先には、大樹の根元にて眠る少女の姿が。
ベディヴィエールは目を閉じる。
脳裏を過ぎるのは、王と共に駆け抜けた日々。
それは余りにも疾く……激しく……まさしく嵐のような日々。
一欠片の光も見え
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