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ドン=カルロ
第四幕その一
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小姓が部屋に入ってきた。
「大審問官が来られました」
「お通ししろ」
 暫くして白い法衣に身を包んだ小さな男がやって来た。左右を修道僧達に支えられている。
「わしは今何処にいるのだ?」
 その白い法衣の男は言った。しわがれた老人の声であった。
「陛下の御前です」
 僧侶の一人が答えた。大審問官は齢九十を越える。年老いて目は見えなくなっていたがその脳はまだ生きていた。
「そうか」
 彼はそれを聞くと頷いた。そして顔を上げた。
 皺だらけの顔であった。若い頃は美男子であったかも知れないが最早老いに支配された顔であった。だが独特の何とも言えぬ険しさが漂っている。それは宗教家というより罪人を裁く酷吏のものであった。
「よくぞ来られました」
 王は彼に対し言葉をかけた。
「陛下ですな」
 審問官はそれを聞き言った。
「はい。貴方のお知恵を授かりたくお呼びしました」
「左様で」
 王はそこで周りに控える大臣や小姓、僧侶達に目をやった。
「下がっておれ」
 そしてその場を下がるように命じた。皆それに従い去っていった。
「で、何についてご相談されるのですかな」
 審問官は王に対し尋ねた。
「我が子カルロのことですが」
 王は彼のことを話し始めた。
「フランドルの者達の肩をもつようになったのです。何処で入れ知恵をされたのかわかりませんが」
「ほう」
「そして先日私の前で剣を抜きました」
「それについてですな」
「はい」
 王は答えた。
「決まっておりますな、その処罰は」
 彼はゆっくりと言葉を出した。
「王子はあのフランドルの者と結託し王の前で剣を抜いた。これは悪魔に心を奪われているのです」
「まさか」
 彼とて悪魔を否定するわけではない。だが大審問官が自らの望まないことを考えていることをそこから悟ったのである。
「その様な者に対する処罰は一つしかありますまい」
「しかしそれは・・・・・・」
 王はそれに対して口篭もった。
「父が子を殺すということになります。それは大罪です」
「陛下」
 大審問官は冷たい声で言った。
「神は主を犠牲になされました」
「しかし・・・・・・」
「それが世の摂理です」
「世の摂理・・・・・・」
 それは恐怖などではない、彼はそう考えている。だが大審問官は違っていた。
「正しき信仰こそが全てです」
「正しき信仰・・・・・・」
「そうです。陛下もそれはご存知の筈」
「確かに」
 王は自分がこの男に逆らえないということをその時身に滲みて感じた。審問官はそれを悟っているのかいないのか言葉を続けた。

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