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Dies irae~Apocalypsis serpens~(旧:影は黄金の腹心で水銀の親友)
第三十七話 悪魔の正体
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怒りの日(ディエス・イレ)の夜の最中、互いに全力で打ち合う故にその存在が脅かされるものがいた。

「――――――ぎッ」

壺中の意志である存在、イザーク・ゾーネンキントだ。彼は痛みのあまりに悲鳴を上げる。

「いた……い…」

出産を待たず広がり始めるグラズヘイムは産道を破壊しようとしていた。このままではイザークが吹き飛ぶ。
それは違うだろう。そうじゃないだろう、誕生とは。私はあなたを祝福し、あなたは私を慈しんでくれるのではないのか?私などもう要らないと、そう言うのですか?

「あ―――――が……」

子宮口が広がらない。時間の停止を起こす世界が広がって、私の出産の邪魔をしている。だからあなたは、私の為に戦ってくれているのではないのか?むしろ邪魔だと?窮屈でならぬから吹き飛んでしまえと?それではあまりに……

「あまりにも非情ではありませんか……父様……」

父親だと自分が思った人間に呪うではなく、縋るような声で言う。私という人間を抱いてくれるものが一人でもいてくれるのではないかと、そう信じて、希望をもっていたなかで……

「あなたまで、私を疎ましいと仰るのか……」

産道が壊される痛みよりも、心が痛い。涙を堪えるように彼は他者に救われるままに消え入りそうになる。だが、

《それを認めろというのはあまりにも残酷だろう》

死への契約者がここに現れる。それは突然だった。異質、と言ってもいいかもしれない。産道の内側に居られるのは御子のみだ。そこに至れる例外は存在しない。にも拘らずそれはそこに立っていた。

「だ……れ…」

《ああ、なんて残酷な結末か。君が信じたその人間は君を信じようとしない。一方が求め、一方がそれを否定する。悲壮、まさに悲劇。だからこの場を俺にゆだねてほしい。選択は常に無限だが手に取れるものは限られている。故に君に選択肢を与えよう。この手を取り、死から逃れるか、手を払い、このまま生を捨て去るか》

そんな悲劇を覆して見せようと。そう嘯く一人の影法師。常時であれば誰であろうともそんな言葉に踊らされない。だが、人は絶望を見せつけられたその時に差し伸べられる手に縋り付きたくなるのだ。それが例え、自分に意思は無いものだと信じる者でも、より深みへと贈る悪魔の手だとしても。ゆえに、イザークは手を伸ばす。このままではどちらにしろ自分が消えることに変わりはない。だったら選択するべきなのだ。

《ありがとう。君は俺を信じてくれるのだね。では、この舞台の幕を下ろそう。そして新たなる寸劇を始めるとしよう。尤も、それがどういった喜悲劇となるかはわからないが》

ここにきて、ようやく彼は己の姿を見せる。これまでは舞台に糸引く人形しか置かなかったがようやく舞台に上がれると言わんばかりに。



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